取材対象者の先にある「物語」を見つける—是枝裕和監督インタビュー

——2002年に、箭内道彦さんがCD、是枝監督が企画とディレクションを手がけたSony Music AuditionのCMも、いま思い起こすと今回のドキュメンタリーに近いですね。

伊藤忠商事のCMを始めるとき、Sony Music AuditionのCM制作時のことを思い返しましたね。あのときは箭内さんに声をかけていただいて、いまミニ番組の音楽を担当してもらっているタテタカコさんほか、これから最終オーディションを受ける人たちを追いかけるドキュメンタリーCMを制作しました。みんなまだデビュー前で、特別な人じゃない。彼らの生活の中に歌がある、それを追いかけていく感じでした。伊藤忠商事の新入社員を追いかけたCMもそれに近い感覚がありました。

——ドキュメンタリーは、やはり追いかける“人”によるところが大きいのでしょうか。是枝監督ならではの人の選び方はありますか。

あるけど、それは言葉にできない(笑)。強いて言えば、被写体が「撮っていいよ」と言っているかどうか、ですかね。それはわかるんです、被写体が素人だと特に。子どもだともっとわかりますよ。子どもとは相性があって、僕と話をしていて、撮ってほしくないと思う子もいれば、撮ってと思う子もいる。それは話せばわかります。

一般の人でも話してみるとだいたいそうですね。美醜ではないし、オーラが出ているとか、そういうことでもなく、何かあるんですよ。あとカメラを回し始めると、意識しているわけではないのに、その子で止まる、というのはよくあります。本人も無意識なんだと思いますが、必ず良いポジションにいる人っているんですよ。それは僕との相性としかいいようがない。

以前に自分の娘が通っていた幼稚園に足繁く通って、2時間ものの卒園ビデオをつくったんです。そのときに、どんなシチュエーションでも、「またこの子が真ん中の一番おいしいところにいる」という女の子がいました。その子も意識しているわけではなくて、決して目立ちたがりだからということでもない。それはもう才能としかいいようがない。あとで映像を見ると、自分の娘よりも、その子のほうが映っている場面が多かったんです(笑)。おかしいな、僕はこの子のこと好きなのかなみたいな(笑)。でも、これも相性なんですよね。

——5月に新作『海よりもまだ深く』が公開されます。

今回は、団地を舞台にしたホームドラマです。僕が20年ぐらい住んだ清瀬の旭が丘団地という公団住宅が舞台で、旦那が死んで独り暮らしをしている母親(樹木希林)がいて、そこに金に困った息子(阿部寛)が戻ってくる。息子には別れた女房(真木よう子)と子どもが1人いて、ひょんなことから台風の夜にその団地で一晩、元家族たちが過ごすという物語です。

僕は団地が好きで、ずっと団地を撮りたかった。いつか団地がなくなってしまうのでは、という危機感もあったので、今回実現できてよかったです。

公開後から新作の製作に入りますが、ドキュメンタリーも自分の中で撮りたいテーマは固まっています。いろいろな意味で難しいテーマではあるのですが、そちらもいつか形にしたいですね。


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