デジタル領域の広告クリエイティブにこそ「手触り」が求められている

【前回記事】「プログラマー出身のアートディレクターが考えるワークするデザインとは?」はこちら

デジタルの浸透によって、膨大なデータを集積できるようになった。消費者の購買行動やキャンペーンの成果が詳細に把握できる一方、データを重視して効率を優先し過ぎた結果、均質化した広告が増えているという声も聞く。

そんな中で、データを始めするテクノロジーとクリエイティブを融合させ、成果につなげているクリエイターがいる。博報堂アイ・スタジオのデジタルソリューション部で活躍する笹垣洋介さんだ。いまデジタル領域の広告クリエイティブに求められることについて、笹垣さんに聞いた。

博報堂アイ・スタジオ デジタルソリューション4部
副部長 インタラクティブディレクター アートディレクター 笹垣 洋介氏

——デジタルソリューション部の中で、どのような役割を担っているのでしょうか。

はい。この部署は、クライアントワークを中心にデジタル領域のコミュニケーションの設計から、制作までを担当する部門です。その中で、私はインタラクティブディレクターとアートディレクターを兼務しています。

最近では、プロジェクションマッピングなど新しいテクノロジーを使用したイベントに関わることも多く、Webからデジタル全般でのコミュニケーション構築と領域を広げていますね。また、副部長として、部員のマネジメントも担当しています。

——プレイングマネージャーとして、働いているのですね。

そうですね。クリエイターの場合、基本的には師弟関係にならないと束ねていくのは難しいですから。それに、僕は自分で手を動かすタイプの人間なので、制作する姿を見せることで「部下に道を示す」ことができると考えています。

——デジタルが浸透することで、広告クリエイティブが大きく変化しています。そんな中で、笹垣さんが大切にしていることは何でしょうか?

僕はよく「手触り」と呼ぶのですが、最終的にユーザーにどんな形で広告が届くのかということを大切にしています。最近は、「誰にいつ」「どんな情報を提供するのか」というデータ活用が重要視されています。それはもちろん大切なことですが、データは過去の蓄積だけに必ずしも未来がその通りにいくとは限りません。

また、適切なタイミングで手元に届いたとしても、果たしてそれは「もらって嬉しいもの」なのか、ということが大事です。マーケティング的な視点はとても大切なのですが、最終的なタッチポイントで人の心が動かすクリエイティブが作れるかどうか、を意識しています。

「手触り」とは、そんなユーザーが広告を受け取ったときに感じる「心地よさ」を表現した言葉です。そこが、僕らクリエイターの腕の見せ所だと思っています。

——最近、手掛けられた事例のなかで、そうした手触りを意識した事例について教えてください。

そうですね。昨年からトヨタ自動車様のプロジェクトで、中国でのハイブリッドカー販売を支援するプロジェクトでしょうか。試乗会への参加者を増やすために、北京、上海、広州、天津、深センの5都市を3~4ヶ月かけてキャラバンしていくイベントと、Webサイトの制作を担当しました。

中国では、日本と異なり、エコ性能や環境対応といったハイブリッドカーの強みを魅力的に受け取ってくれません。そこで、ハイブリッド技術を「世界最高水準の技術」というステータス性に転換することで、市場開拓を行いました。

最新技術を搭載した車であることを伝えるため、Webサイト制作に加えて、ARアプリ、プロジェクションマッピング、デジタルサイネージなど、さまざまなテクノロジーを活用しました。プロジェクションマッピングでは、炎と光の2羽の鳥が交差する姿を描き、ハイブリッドであることを表現しました。イベント当日はターゲットである25~35歳の男性だけでなく、子どもたちにも盛況で、その結果、イベントから試乗会への誘引目標を大きく達成することができました。

博報堂アイ・スタジオでは、「統合デジタルマーケティング」という考えを掲げています。今回は、デジタル上で理解を促し、リアルイベントで感動を与えて、最終的な試乗会に誘引させるという、まさに「統合デジタルマーケティング」の典型的な事例になったと思います。

——このプロジェクトを成功させるために、どう博報堂アイ・スタジオ内のクリエイティブチームをマネジメントしたのでしょうか。

最終的なゴールイメージを共有することがポイントでした。今回のケースであれば、ハイブリッド技術の先進性について「理解」してもらい、「共感」を呼び、「納得」させるという一連の流れをつくることができれば、目的である試乗会への誘引が達成できるというコミュニケーション戦略を立案します。その目的達成のために、Webサイトやイベント内のプロジェクトマッピングなどが、その流れでどう機能するのかということを説明しました。

僕は、説明するためにまずは全体の絵を描くようにしています。最初に、ラフイメージを描いて、「これとこれがあったらいいよね」「それから表現方法はこういうのがいいんじゃないかな」とイメージを骨子にして一緒に企画を作り上げていくのがやり方です。最初にイメージが共有できれば、曖昧な領域が減り、スタッフがスピーディに動けるようになります。

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