——近年は、こうした広告クリエイティブの考え方やノウハウを、ソーシャルグッドの領域に活用しようという流れが増えていますね。
そうですね。私たちも、クライアントからの制作物を受注するといった従来の方法だけではなく、自分たちで課題を探し、その解決策を提示し、共感してくれる企業や団体を探す、という新たな動きも始めています。
「TREK TRACK(トレック・トラック)」という登山者に役立つプロジェクトを立ち上げました。最近は、登山がブームですが、入山者が増えると同時に事故も増えています。2014年の御嶽山の噴火も、被害状況がなかなか分かりませんでしたよね。山にネットワークがないことからも、遭難者の発見の遅れにもつながっています。
ネットワークの存在しない山の中で「今何人が入山していて、今どういう状況なのか?」。そうした情報を、デジタル技術を活用することで把握できないかと考えました。「トレック・トラック」では、山の中にソーラーパネルを搭載した端末を設置。専用のアプリをダウンロードしている登山者が端末の近くを通るとその位置情報が蓄積され、また登山者同士がすれ違った時に互いの位置情報や時間などのデータを交換、補完し合い、自動的に精度が上がっていく独自のメッシュネットワークを構築しました。その中の誰かがオンライン環境に入ると、蓄積されたデータがオンライン上にアップロードされる仕組みになっています。
山の管理者や登山者の家族が蓄積された情報を見ることができ、危険な状態にある人が地図上で赤く表示されます。たとえば、日没までに下山できない位置にいる人や、何時間も動いていない人がいるなどの状況を察知し、すばやく通報できるようになります。
3月にアメリカで開催されたテクノロジーの祭典「SXSW」にも出展し、注目を集めることができました。
——最後に、今後の展望について聞かせてください。
博報堂アイ・スタジオほど、自主性を尊重してくれる会社は他にないと思っています。何しろ、社長自らがスタッフの「これがしたい」という思いを叶えると宣言していることもあり、その文化が浸透しています。当然自主性には責任も伴いますが、それが社員のモチベーションアップにつながっています。
私ももっとチャレンジして、クリエイティブの価値を高めていきたいと思っています。いまの広告クリエイティブは、デバイスのサイズやスペックを重視するあまり、均質化されつつあるように感じています。今後は、スクリーンを越えたところにコミュニケーションを実現させていきたいですね。
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