宣伝会議から発売する『CMを科学する』の著者で、デジタルインテリジェンス代表取締役の横山隆治氏による、新たな「宣伝部の変革」をテーマにしたコラム。ネット黎明期からデジタルマーケティングの理論化・体系化に取り組み、ビジネスとして実践してきた氏が、リアル、マスをデジタルと融合した真のデジタルマーケティングのあり方について語ります。
前回のコラム「宣伝部の変革と復権-次世代マーケティング部への機能再編-」はこちら
横山隆治さんのコメント
宣伝部の変革と復権-次世代マーケティング部への機能再編-のコラム以来、久々にアドタイに連載します。今回は『CMを科学する』という本を宣伝会議から出版するにあたり、この本の骨子に沿って、新たな「宣伝部の変革」というテーマを提示していこうと思います。しかし話は宣伝部の領域に留まらなくなり、新たなビジネスを予感させるものに向かっていきます。
まず、『CMを科学する』テクノロジーを追っていくと、その先にあるのは単にCMという広告クリエイティブの世界や、もっと言うとマーケティングの世界にも留まらない「未来の大きな広がりを思考する」ことになります。たとえば、本で取り上げているセンサーの技術(赤外線センサーやデプスセンサー)、PCやスマホ搭載のカメラで生体認証技術や、人の行動・感情データをプログラマティックに取得する技術が、その可能性と期待値を大きく広げているわけです。今では人間の持つ最高のコミュニケーションデバイスである「顔」と、そのスクリーンである「表情」を機械が読み取れるようになりました。そこにIoT、ビッグデータ、人工知能が絡んでくることで、「未来ビジネス」が広がっていく予兆を感じさせるものとなりました。
そういう「未来ビジネス」への期待も胸が膨らみますが、まずは、今現在1兆8000億円にもなるテレビ広告市場に、こうしたテクノロジーを導入して最適化することのほうが先決です。このテレビ広告費は直接的には広告主が払っていますが、間接的に消費者が払っているのです。この効果・効率をより良くすることは、消費者に良い商品やサービスをより安く供給することにつながります。
今回の書籍『CMを科学する』では、「視聴質」という概念を提起しています。ずいぶん前に、広告主協会(現・日本アドバタイザーズ協会)が、この「視聴質」を測定せよとのメッセージを発信したことがあります。ただ当時は、その定義も測定方法もない状況でしたので、その要望に応えることができなかったわけです。しかし今のテレビ視聴データの測定技術は、この「視聴質」の測定を現実のものにしつつあります。
テレビCMの到達実態は以前よりずっと詳細に、把握できるようになっています。しかもそれらはほぼリアルタイムで(例えばデイリーで)ターゲットの到達実態がわかるようになっています。さらに、録画再生によって到達しているCM視聴が、番組によってはリアルタイム視聴時よりも多い場合もあり、単に「録画再生視聴の際には、CMはスキップされているもの」と切り捨てて解釈することがまったくできない状況なのです。
この本のサブタイトルは『「視聴質」によって知るCMの本当の効果とデジタルの組み合わせ方』です。本当の到達実態はもちろん、視聴質測定についても言及します。さらに本書ではCMクリエイティブの数値化にも踏み込みます。コミュニケーションにおいては、クリエイティブが最大の変数だからです。そして、データを味方につけるクリエイターこそが良いクリエイターとなることを示唆しています。データを使うということは、クリエイターが良いジャンプをして、しっかり跳び箱(目標)を飛べるように、ロイター板を正確な方向と位置に設置することと定義することができます。
また、クリエイティブをデータ化するということは、従来「経験と勘」に左右されていたものを科学的に立証することでもあるのです。このコラムでは、『CMを科学する』の論旨のポイントを明示しつつ、さらに掘り下げた話をしたいと思います。ぜひ4月15日発売の『CMを科学する』をお読みいただきたい。そのうえでこのコラムを併読いただけると、さらなるご理解を深めていただけるものと思っております。
デジタルインテリジェンス 横山隆治