西川美和×谷山雅計×福里真一「コピーライターと映画監督が語る、アイデアを生む“脳の動かし方”」【前編】

谷山さん→西川さんに質問
「原作・脚本・監督を1人でする時、視点をどう切り替えているのですか?」

福里:では、谷山さんから。「1人で、原作→脚本→監督を手がけられていて、それぞれの時点で、視点・モノの考え方の変化はありますか?」。

谷山:他人が書いた原作なら、ここはいらないから切ろうとか、客観的に判断できるだろうけど、自分が書いた原作を脚本家や監督として変えていく時って、1人だからこそ難しい部分ってないのかな?と思ったんです。

西川:文章でできることと映像でできることは違うと思っています。脚本は映像のための青写真ですが、原作には視覚化しなくていいことも書けます。視覚化するという条件を自分に強いずに書くことで、キャラクターや物語のベースに厚みをもたせられて、自分自身もよく理解できるんじゃないかというのが、今回原作を書いた目的でした。

谷山:原作を読んだ時に、映画化を意識した原作に全然思えなくて。小説としての高い完成度がありました。今回はそれをかなり意識していたということですね?

西川:そうですね。いつもは映画の脚本を最初に書くのですが、予算などの縛りの中でしか話を書けないことに、すごく窮屈さを感じていて。『永い言い訳』はそういう縛りを取っ払って物語を書きました。原作の忠実な視覚化を目指してしまうと、どうやってもキャストは私が原作を書く時にイメージしていた人物像とは異なりますし、場所だって違う。原作に縛られると「違う」ということを否定的に捉えてしまうんです。ですから、映像化する時はスタッフやキャストの中で私が一番原作を忘れるように心がけました。

福里:あれだけ克明に文章で心理を描かれていて、それを映像に移し替えるのは、ご自身にとってどんな作業なんですか?

西川:人の内面のことって、映像で表現するのはすごく難しい。モノローグを使えばいいといった単純なことじゃない。例えば、小さな子どもの思っていることを映像で描こうとしても、なかなかうまくいかなかったりします。そういうことも自由に表現できるのが言葉の世界の面白さだなと思います。原作を書くことと映像化は全くの別作業だと捉えて、映像にしかできないことは何なのか考えながら、ワンシーンずつ積み重ねていきます。原作をうまく脚本に焼き直そうとするよりも、ああいう気持ちはどう人物を動かしたら表現できるのか、単に台詞で喋らせるよりも何かそれを物語る風景を1枚映せばそう「見える」のではないかといったように、置き換えの発想をしています。そうすると一つ一つの作業が新鮮で飽きないんです。

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後編につづく>


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西川美和(にしかわ・みわ)
映画監督

1974年広島県生まれ。大学在学中より『ワンダフルライフ』(是枝裕和監督)にスタッフとして参加。2002年『蛇イチゴ』で脚本・監督デビュー。以降『ゆれる』(2006年)、『ディア・ドクター』(2009年)、『夢売るふたり』(2012年)などの長編映画はいずれも本人原作からのオリジナル作品。小説作品に『ゆれる』『きのうの神さま』(いずれもポプラ社)、『その日東京駅五時二十五分発』(新潮社)、『永い言い訳』(文藝春秋)。エッセー集として『映画にまつわるXについて』(実業之日本社)がある。2013年、制作者集団・分福の設立に参加。長編最新作『永い言い訳』(本木雅弘主演)は10月14日より公開決定。

 

谷山雅計(たにやま・まさかず)
コピーライター、クリエーティブディレクター

1961年大阪府生まれ。84年博報堂入社。97年に独立して谷山広告を設立。主な仕事に東京ガス「ガス・パッ・チョ!」、資生堂「TSUBAKI」「UNO FOGBAR」、新潮文庫「Yonda?」、日本テレビ「日テレ営業中」、東洋水産「マルちゃん正麺」、日本郵便「年賀状」、サイボウズ「働くお母さん応援Webムービー」など。著書に『広告コピーってこう書くんだ!読本』『広告コピーってこう書くんだ!相談室(袋とじつき)』(いずれも宣伝会議刊)。

 

福里真一(ふくさと・しんいち)
ワンスカイ CMプランナー、コピーライター

1968年鎌倉生まれ。1992年電通入社。2001年からワンスカイ所属。今までに1000本以上のテレビCMを企画・制作している。主な仕事に、ジョージア「明日があるさ」、サントリーBOSS「宇宙人ジョーンズ」、トヨタ自動車「こども店長」「ReBORN」「TOYOTOWN」、ダイハツ工業「日本のどこかで」、ENEOS「エネゴリくん」、東洋水産「マルちゃん正麺」、アフラック「ブラックスワン」、ゆうパック「バカまじめな男」など。著書に『電信柱の陰から見てるタイプの企画術』(宣伝会議)、『困っている人のためのアイデアとプレゼンの本』(日本実業出版社)。

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