バナーや動画のように音声広告を配信
エフエム東京は、インターネットラジオや音楽ストリーミングサービスをつなぎ、ディスプレー広告のように音声広告を配信する「オーディオ・アドネットワーク」に着手する。3月30日、多言語情報発信チャンネル「TOKYO FM WORLD」で、配信実験として、自社広告の配信を始めた。「TOKYO FM WORLD」は、ネットラジオ配信大手チューン・イン(TuneIn、サンフランシスコ市)と提携し、昨秋、本格的にスタートしたチャンネル。スマートフォンアプリで聞ける。
昨年11月、音声広告テクノロジー企業の米アズウィズ(Adswizz、サンマテオ市)と提携し、日本企業向けに、アズウィズが持つアドネットワークの音声広告枠のセールスを始めた。バナーや動画広告と同様、音声広告の配信時には、聴取者の「居住地」「聴取端末」「性・年代などの属性」といった条件を指定できる。ニュースチャンネルやスポーツチャンネル、音楽カテゴリーを選ぶことも可能。
光学機器メーカーのビクセンを広告主に2月、米・独・伊を対象として音声広告と連動バナーを配信した。広告で特定のアプリのダウンロードを促したところ、バナーのクリック率は期間平均で2.4%、アプリのダウンロード数は広告出稿前の23倍に達したという。
エフエム東京は日本国内向けにこうした音声広告のアドネットワークを構築する考えで、インターネットラジオや音楽ストリーミングサービスにも配信先を拡大する。提携企業は今後つめる。
国内リスナーだけでは成長に限界
米イー・マーケターの推計では、米国の2015年のオンライン広告市場の内、3300億円ほどがネットの音声サービス関連の広告収入という。6兆円規模のオンライン広告市場のおよそ5%にあたる。そもそも米国ではラジオ広告費は2兆円近く(174億3000万ドル)に上り、日本の15倍以上の規模を持つ。インターネット・ラジオも一般的で、全人口の約半分を占める1億6000万人が1カ月に1回以上、聴取しているという。ラジオ広告費、ネットラジオ人口共にスタティスタ調べ。
プライスウォーターハウスクーパースは、中国とインドのラジオ局総収入が拡大すると見込む。2015年から2019年までの5年間、年率平均でそれぞれ8.7%、8.9%成長すると予測する。各市場で拡大する中流階級と、彼らの消費意欲が、ラジオ広告の収益拡大にも追い風となるようだ。
台湾、韓国、香港も、Wi-Fiの設置状況など、ネット接続環境で見れば日本よりも進んでいるため、データ量規制を気にせずにネットコンテンツをスマホで楽しめる状況にある。
対照的に日本では、ラジオ局の総収入は15~19年の年平均で3.5%減と縮小を続ける見込み。聴取者そのものの減少や高齢化、若い世代がWebやアプリなどその他のコンテンツや、ストリーミングサービスに流出している、といった要因が考えられる。
エフエム東京経営戦略室の原田俊亮氏は「TOKYO FM WORLD」の開始に際し、「日本語の番組で日本人だけのリスナーを狙うのではこれからの成長は果たせないのではないか」と語った。「10年、20年先を見れば、より通信分野に取り組む必要がますます高まってくる。ラジオの通信分野参入はサイマル放送だけではなく、ネットを介した音声コンテンツ配信も考えられるはずだ」。
「音声コンテンツと音声広告をリスナーに届けられるプラットホーム、それがラジオ局の本来的な仕事かもしれないと考えるようになった。すべてを自分たちでまかなう必要はない。各所と協力体制を築きながら、世界とつながるメディアとして発展させていきたい」。
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