アクセンチュアは、なぜデジタルマーケティング領域での事業を拡大するのか?

デジタルマーケティングが経営の重要なファクターになる時代、米国ではコンサルティング企業による広告会社(エージェンシー)買収の動きが活発化し、多くの企業が広告領域に進出している。その動向を探る連載の第2回は、2016年4月5日にアイ・エム・ジェイ(IMJ)の買収を発表したアクセンチュア。AdverTimes編集部では3月、同社 マネジング・ディレクター 黒川順一郎氏になぜデジタルマーケティング領域での事業を拡大するのかインタビューした。

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Q.デジタルマーケティング領域での事業を拡大する理由は?

アクセンチュアは、「マーケティングのデジタル化」という狭義のデジタルマーケティング領域での支援のみならず、クライアント企業の変革と成長をもたらすことを目的に、デジタルテクノロジーを自社のバリューチェーンに取り込むことで、“顧客体験”を基軸にしたマーケティング活動の実現を支援している。

消費者環境のデジタル化、並びにそれに伴う消費活動・方法の変化を受け、企業競争の主戦場が“顧客体験”になってきている。これに伴い、各企業がこの“顧客体験”の価値提供を中心に、商品・サービスそのものだけでなく、企画・R&D、生産、物流、販売、カスタマサービスといった企業活動全体の変革を志向している。この変革を実現するため、これまでの業務のやり方、組織構造/ガバナンス、企業カルチャー、ケイパビリティ、ITの在り方を大きく変えていく必要がある。また、この変革をいち早く実現するスピード感もとても重要であり、こうした変革を推し進めるため、デジタルテクノロジーの活用が重要視されている。

アクセンチュア デジタルコンサルティング本部 アクセンチュア インタラクティブ統括 マネジング・ディレクター 黒川 順一郎

一方で長らく効率性・合理性を主軸に経営をしてきた企業にとって、一朝一夕でこの変革を実現することは容易ではなく、これを実行支援するビジネスパートナーが求められており、このニーズは国内外で拡大傾向にある。こうした理由から、アクセンチュアでは、グローバルのノウハウと多様な人材を結集させた「アクセンチュア・インタラクティブ」という組織が、顧客体験価値の向上を支援する戦略的なビジネスパートナーとして、”顧客接点”に関わる戦略立案、業務・組織改革、IT改革、オペレーション実行のすべてを”end to end”で支援している。

Q.米国におけるコンサル会社のデジタルマーケティング領域でのビジネス拡大の動きは、日本市場でも同様に出ているのか?

ここではデジタルマーケティングに限定せず、あえてマーケティングという言い方をするが、企業にとって、マーケティングの位置づけが従来のマス向けの自社商品・サービス認知度向上から、消費者一人ひとりにとっての新しい“顧客体験”を提供し、企業パフォーマンスに直接的な貢献をする、という役割を持つことになっている。より広義に、企業活動全般の変革へと任務が変わってくる中で、この動きは、いよいよ日本企業でも本格化していくと考えている。

当然ながら企業の戦略立案や実行支援を本来の生業とする、コンサルティング会社のサービススコープにも入り、日本でも確実にビジネスが拡大するものと考える。すでにアクセンチュアでは日本を成長市場と位置付け、積極的な投資やグローバルリソースの集中も行っている。

コンサルティング会社以外でも、デザインブティックや広告会社各社もこの動きに呼応してM&Aや人材採用・育成を急いでおり、様々なプレイヤーがこうした市場ニーズに応えるべくサービス体制を整えてきている。

ただ、企業変革を支援するためには、企業経営戦略、業務プロセス、テクノロジー、オペレーションに精通した人材を保有していること、グローバルの先進事例に精通していること、企業経営層の関心事を理解して適切なコミュニケーションを行えること、企業変革の実現そのものによって対価を受け取るビジネスモデルを提供できること、などが必要となるため、この観点において現時点ではコンサルティング会社に一日の長があると考えている。

Q.アクセンチュアの日本市場でのビジネス戦略は?

一般的にデジタルマーケティングの範囲は、デジタルメディア、アドテクノロジ、マーケティングオートメーション、データドリブンマーケティング、デジタルコンテンツマーケティング、Web/モバイルプロダクション、ソーシャル、SEM/SEOなどに関わる戦略立案、実装、オペレーションということになる。アクセンチュアはこれらを支援するケイパビリティを保有しつつも、すべてが同じKPI(つまり企業のパフォーマンス向上)のもとで、一社で完結してサービスを提供することを重視している。

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業務領域を分断し、より低コストの別々の会社に依頼して組み合わせる方法は、比較的に時間軸が長く、業務領域間の役割分担を明確にして進める仕事であれば機能する。ただ、デジタルマーケティングにおいては、様々なケイパビリティを持つ人材が共通の目的を掲げて混然一体となって高速にPDCAを回すことが重要になる。

一方で、これ以外の業務領域であるメディアバイイングやイベント実施などは、国内外のパートナー企業と連携してサービスを提供していく。そういう意味では、「アクセンチュア・インタラクティブ」が提供するサービスは、日本市場における、いわゆる“デジタルエージェンシー”が、提供するサービスとは少々位置づけが異なると考えている。

Q.どのようなクライアントが、従来のエージェンシーからアクセンチュアのようなコンサル会社にシフトすると考えているか。

ここ数年で様々な業界の企業からいわゆるデジタルマーケティング領域の支援に関する引き合いが非常に多く、全社的、継続的な企業変革の実行を支援させていただくことが大半。しかしながら、単純にエージェンシーからコンサルティング会社にすべてをシフトするわけではない。まず、マスメディアが完全になくなることはないこと、各エージェンシーもデジタルマーケティングのサービスを強化していることから、むしろ協業・連携して企業を支援する形も増えるのではないかと考えている。

ただし、日本企業がグローバル展開する場合には、デジタルマーケティングにとどまらず全面的な企業変革の支援できるアクセンチュアのようなグローバルコンサルティング企業がメインパートナーとなるケースが増えるだろうと思う。

『宣伝会議』編集部
『宣伝会議』編集部
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