マーケティングのど真ん中にいかにデジタルを組み込んでいくかという議論がよくなされている。日本企業のマーケティングのど真ん中と言えば、テレビCMだ。このテレビとデジタルが融合してこそ、真のデジタルマーケティングが完成する。
ここでは、人口統計学的属性(デモグラフィック)と広告の視聴モードに着目し、スマートニュース執行役員の川崎裕一氏と「スマホ時代のメディアプランニング」について考える。
宣伝部の本流にデジタルを取り込む
横山:僕はテレビCMにデジタルを取り込む方法論には、三つのステップがあると考えています。近年の宣伝部を取り巻く課題の一つに、若年層にテレビCMだけではリーチしづらくなっているという状況があります。これまで、テレビで行ってきたブランディングを目的とした広告をオンラインで補完する必要が出てきている。僕がオンライン動画に着目するのは、ブランディングと親和性が高いのは、やはり動画だと考えているからです。だからこそ同じ指標で両方を捉えておくべきなのです。テレビCMで獲得できなかったターゲットリーチをオンライン動画で補完する。今はまだ、テレビが主でオンラインが従の関係で捉えていますが、すぐにこの関係は逆転しかねない。今のうちに、デジタルへのシフトを進めるべきです。
二つ目はフリークエンシーのコントロールです。これは認知を補完するという意味で、有効かつ適正なフリークエンシーに補正するということです。
テレビと違い、オンラインの広告はフリークエンシーをコントロールすることが可能です。これまでオンライン広告のフリークエンシーコントロールは、あくまで、フリークエンシーキャップの議論でした。これをもっと戦略的に活用していくべきだと考えています。テレビだけだと、GRPの投下量を増やすだけでは高齢層中心に過度にフリークエンシーが集中してしまうだけ。オンラインならではのターゲティングの機能を活用し、たとえばテレビでリーチできなかったターゲットを狙って、広告を出すなど、適切なターゲットで適切なフリークエンシーを獲得していくことも可能になっています。
三つ目はテレビCMとオンライン動画の相乗効果の醸成。購買意向などはテレビCMだけでは促進しづらくなっています。テレビCMは、より多くの人に響くようにつくろうとするので、結果的に誰にとっても強く刺さるものではなくなってしまいます。その点、オンライン動画であればユーザーの文脈に合わせて、複数のクリエイティブを出し分けることができる。これまでテレビCMありきで、おまけ的につくられてきた動画や、テレビとはまったく別にオンラインでバズることを目的にした動画コンテンツがほとんどでした。ちゃんとテレビCMとオンライン動画が連携してテレビCMというブランドの文脈とオンラインでのユーザーの文脈とで、同じブランドメッセージをより強く伝えるコミュニケーション設計をしなければなりません。具体的なプロセスとしては、まずオンライン動画のコア・アイデアをつくり、そのアイデアを基にセグメントしたユーザーの文脈に合うように複数のクリエイティブを試してみる。そこで配信した結果を踏まえて、効果のあったポイントを寄せ集めて、テレビCMのクリエイティブに終結させる。これにより、多額の投資が必要なテレビのCMの成功の確率を高めることができると考えています。
川崎: テレビにも出稿している当社のクライアントが、オンラインで動画を配信することが、テレビCMの「ダウンサイドリスク」をコントロールすることになると話していました。当たるかどうかわからないクリエイティブをいきなり何千万円、何億円もの費用を投じて、テレビで流すのはリスクがある。テレビCMの費用の一部を使ってでも、先にオンラインで流して検証し、反応のあったものをテレビで流すようにしているということなんです。1週間、スマートフォンのメディアで動画を配信する広告費は200万円程度。この費用を投じることが、結果的にテレビCMのダウンサイドリスクを低減させられるなら、全体として効率は高まる。テレビとデジタルを対抗軸で捉えるのではなく、「アンド」の関係で捉え、テレビCMのリスクもカットする。まさに、運用型の発想ですよね。
横山:最近、テレビのターゲットリーチのアクチュアルデータをリアルタイムに見ながら、テレビで取れなかったリーチをオンラインで補完して入札するための支援ソリューションの提供を始めました。これまでのメディアプランニングは出稿前にシミュレーションをしていましたが、僕は事前のシミュレーションには意味がないと思っています。競合ブランドがどう出てくるかや、ターゲット消費者がどう反応するかは事前にはわかりませんからね。広告のリーチほか、各種成果は変数があまりに多い。事前にプランを決め込むのではなく、証券会社のトレーダーのようにリアルタイムでデータを見て、運用をしていかないといけないでしょうね。DSPもクライアント側がリアルタイムに手を打つうえで、機能するツールだと捉えています。