――仕事とライフワークの違いって、なんでしょうか。
仕事は苦しいって言う人がいるかもしれないけど、ライフワークは苦しいって言いづらいんじゃないかな。基本は楽しいだろうし、苦しくても、それは自分がライフワークを成し遂げる過程で、たまたま“事故”が起きていたりする状態だろうから。自分で選んだわけだから、人のせいにできないのがライフワークなんじゃないでしょうか。ライフワークに割く時間は、本当にそれぞれでいいと思うんです。一年に一日だけでもいいし、自分の仕事と完全に一体化させて365日ライフワークに専念するのもいい。そして、ライフワークのせいにすることで、いろいろ苦しいことも乗り越えられちゃったりする。「ライフワークだからなぁ、これ」「0円だからなぁ」という具合に。それを、「一人の人を笑顔にしたら10円もらえる」という尺度でやり始めると、自分のやりたかったことが途中でわからなくなってくるんじゃないかと思います。
――400人が一気に集まって「本当にやりたいんです」って言うなんて、確かにすごい時代ですよね。私たちが思っている以上に、「NO LIFEWORK, NO LIFE.」の気運が高まっているのかも、と思います。
ライフワークによって、自分の人生が肯定されるんですよね。昨年4月に福島県のクリエイティブディレクターに就任しましたが、自分が広告の世界で30年近く身につけたことを、故郷のために役立てられる場所があるって、すごく幸せなことなんだと思います。「俺なんかでいいんですか!?」って。4月から母校の東京藝術大学の准教授を務めたのも恩返し。「渋谷のラジオ」も風とロックの事務所がある地元への恩返し。育てられた人間って、求められている場所で汗をかきたいっていうのが、あるのかも知れません。
もしかすると、きっかけの一つには、東日本大震災があるのかもしれませんね。強制的にそういうことに接することになった、というか。そういう場が与えられたことで、ボランティアというものが一般的になった気がします。
そういう場に慣れたのかもしれないですね、みんな。捧げる喜び、「giving win」じゃないけれど。あとはやっぱり、そういう場所ってフラットだから、上司⇔部下のような関係でなく、フラットにそれぞれの力をつなぐことができている感じはしますよね。
『広告の明日』が見えるキーワード
「ライフワーク」
日々の業務の中で忘れそうになった初志を確かめる。
箭内道彦(やない・みちひこ)
クリエイティブディレクター 東京藝術大学美術学部デザイン科准教授
1964年 福島県郡山市生まれ。博報堂を経て、2003年「風とロック」設立。タワーレコード「NO MUSIC, NO LIFE.」リクルート「ゼクシィ」をはじめ、既成の概念にとらわれない数々の広告キャンペーンを手がける。また、若者に絶大な人気を誇るフリーペーパー「月刊 風とロック」の発行、故郷・福島でのイベントプロデュース、テレビやラジオのパーソナリティ、そして2011年大晦日のNHK紅白歌合戦に出場したロックバンド「猪苗代湖ズ」のギタリストなど、多岐に渡る活動によって、広告の可能性を常に拡げ続けている。2015年4月、福島県クリエイティブディレクターに就任。