日本一になるまで他のことをやらない
長谷川:僕の場合は、どうすればいいですかね。本を書いたり、コピーライター養成講座のようなものを開いたりしようかなと考えたりもしているのですが。
仲山:コピーライターとしての仕事がまだ軌道に乗っていなくて、コピーライター養成講座をやって稼いでいる、みたいなことになると、「コピーライターって食べていけないのかな」などと思われそうで説得力がなくなる気がします。手を広げるより、コピーライターとして突き抜けたほうが良いと思います。
楽天も、創業者の三木谷が金融の出身なので、メディアの取材で「ネットの金融事業はやらないんですか?」とよく聞かれていました。でも三木谷は、「ECモールで日本一になるまでは他のことをやらない」と決めていたんです。ひとつのことで突き抜けると、あとで何か他のことを掛け合わせたときに、相乗効果が生まれやすいと思います。
長谷川:いろいろ手を出してどれも中途半端になるのは良くないですね。独立1年目をどう過ごせばいいか、分かった気がします。
仲山:コピーライターはコピーで勝負、という考えもあると思いますが、「一緒に仕事をしているプロセスで学びや気づきを提供できる」みたいなのはいいですよね。コピーをつくるにあたってクライアントさんに質問をしていくうちに、「そうか、頭が整理できた!」と喜んでもらえるコピーライターだったら、「またあの人に頼みたい」となりそうです。
組織に属しながら自由に働くヒント
長谷川:仲山さんは、いまは楽天の正社員なんですよね。でも自分の会社もある。組織に属しながら自由に働けるのっていいですね。
仲山:「組織だと自由にできないから」という考えで独立する人もいると思うのですが、独立しても大きなクライアントさんに依存するような状態だったら、相手にとっての正解を探しにいく仕事になってしまう。それだと結局、上司が社外の人になっただけですよね。
自由なサラリーマンもいるし、不自由な自営業者もいると思うんです。独立して自由にやれる人は、組織にいても自由にやれるように環境を整えていけるはずなんです。
長谷川:組織のなかで、自由に働くコツはありますか?
仲山:お金がかからなくて、みんなが重要視していなくて、でも実は会社にとって役に立つようなことを探すと良いと思います。
僕の仕事でいうと、楽天市場の流通総額(出店者の売上合計)は、会社全体で掲げられている重要な目標であり指標化されていますけど、「店長さんとコミュニケーションをとる」という部分は、誰の業務目標にもなっていないし、お金もかからない。だから自由にやれる。
やっているうちに仲良くしてくれる店長さんが増えてきて、成功事例や商売で大事なことを教えてもらえるようになりました。また、自治体や学校から楽天に講演依頼がきたときに、店長さんとコラボでお話をしに行くなど、いつの間にか「仕事仲間」になっていたり。そうなってくると、「何だかよくわからないけど、とりあえずやらせておいてもいいか」くらいには思ってもらえるようになるかもしれません。
岐阜県庁のスーパー公務員さんが、あるとき、こんなことを言っていました。「公務員がやってはいけないことを同僚みんなで考えてみたのですが、結局、法律に反さないことなら何をやってもいいという結論になったんです」と。予算がなければゼロ予算でやればいいし、前例がないとか自部署の管轄でないとしてもやってはいけないわけではない、と。
長谷川:うーん。その言葉、組織にいても自由にできるという何よりの証拠ですよね。
仲山:もし僕が「やりたいことがあるから独立したい」という相談をされたら、「そのやりたいことを今できない理由は何ですか?」と聞きます。今のままでは絶対にできないなら会社を辞めればいいし、会社にいてもできるなら辞める必要はないんじゃないかな、と思うので。
長谷川:フリーランスだから自由、会社員だから不自由、ではなく、結局その人次第なんですよね。僕も自由でいられるように頑張ります。今日はありがとうございました。