マーケティング成功の鍵が必ずしも広告ではない
前回のコラムでご紹介したトリプルメディアの絵をもう一度見てみましょう。
マスマーケティング時代のマーケティングはペイドメディア、つまりは「広告」が中心に展開されてきました。この時代のマーケティングは広告会社の独壇場だったと言えるかもしれません。
それがデジタル時代になり、オウンドメディアの種類や可能性が拡がったことにより、一部のクリエイティブエージェンシーやデジタルエージェンシーは、広告中心ではなくオウンドメディアを中心に大きな話題を作れることを証明し始めています。また、ソーシャルメディアの普及によりアーンドメディアの種類や可能性が拡がったことにより、デジタルエージェンシーやPRエージェンシーが戦略PRやクチコミを軸にしたアプローチで、大きな話題を作れることを証明し始めています。
さらにはデジタル化やIoTの進行により、そもそも商品やサービス自体がメディア化し、それ自体が、グロースハック的に顧客が顧客を連れてくる仕組みを構築することで、広告的なものがなくても売上を急速に増やすサービスやアプリの成功事例も増えてきました。
もはや、マーケティングの成功は必ずしもペイドメディアとしての「広告」を中心にしていないわけです。ユーザーにとってはマーケティングの軸がペイドメディアか、オウンドメディアか、アーンドメディアかは関係ありません。ユーザーにとって最も重要なのは企業が提供する商品やサービス自体です。
当然、企業にとっても、マーケティングの相談相手が広告を中心にしている広告会社か、ウェブサイトを中心にしている制作会社か、クチコミを中心にしているデジタルエージェンシーかは関係ありません。企業にとって必要なのは自社の商品やサービスの顧客やファンを増やし、業績を伸ばすための適切なアドバイスをし、実行してくれるパートナーであり相談相手です。
そういう意味で、経営陣の相談相手であるべきコンサル会社が、専門組織であるデジタルエージェンシーを買収することで、自分達が書いた戦略を実際に垂直統合で実現できる組織を目指すというのは、コンサル会社が今後企業の戦略やマーケティングの相談相手としてのポジションを確保するための戦略として当然のものと言えます。
一方で、日本において長らくマーケティングの相談相手を務めてきたのは広告会社ですから、個人的にはこの両者の激突は不可避であると感じます。正確には、すでに10年以上前から各所でバッティングは始まっているはずです。
実際に両者がコンペで「競合」することは少ないかもしれませんが、広告会社がデジタルマーケティング戦略自体もえがく存在として企業の相談相手の座を守りつづけられるのか、企業の相談相手の座はコンサル会社が奪い、コンサル会社がえがいたデジタルマーケティング戦略の「広告」部分のみを広告会社が実行するという協働になるのか、という二つのシナリオには大きな違いがあります。
特にアクセンチュアによるIMJの買収にみられるように、マーケティング戦略を描くコンサル会社と、オウンドメディアやコンテンツの構築が得意な制作会社が一緒になれば、オウンドメディアやアプリなどを軸にしたデジタルマーケティング戦略が、立案から実行までコンサル会社のグループで完結してしまう可能性もあるわけです。
当然、日本の総合広告代理店は海外のコンサル会社を買収したり、社内にコンサル組織を立ち上げたりと、様々な手を打っています。
いずれにしても、今後すべての「広告」会社に問われるのは、自分達をいわゆる狭い意味での「広告」を企業に販売する会社であると定義するのか、商品やサービスを「広く告げたい」という企業の課題を解決するマーケティングの相談相手であると定義するのか、という点でしょう。