【前回コラム】「到達実態を知る~その1~ 録画再生視聴を加えるとCMはどれだけ到達しているのか」はこちら
長い間テレビ広告の仕事をしていると、CMの到達についてはアクチュアル(実際に放送されたときのCM視聴率)で世帯GRPとターゲットGRPを報告すれば良い、ということに疑いを持たない。
しかし、長くテレビ広告の仕事をしたのち、ネット広告ビジネスをゼロから立ち上げて20年続けてきた筆者が、いま一度テレビ広告の到達実態を把握しようとする時、次の2つのことを疑問に思うようになった。
- ターゲットGRPをアクチュアルで把握したとして、GRPは視聴率の合算、つまりパーセントという割合を指標化しているが、そもそも若年層の人口が減っている(母数が減っている)のに、いまだにパーセントで指標化していていいのだろうか?
- ターゲットの視聴率の合算が同じでも、何人が何回ずつ見ているかの中身は違うのではないか?つまり、平均フリークエンシーという数値にはほとんど意味がなく、(平均値に正規分布しないので)フリークエンシー分布(1回のターゲットは何人、2回は何人・・)を把握しないといけないのではないか?
そして、実はこうしたデータはアウトプットできるのである。
それは以下のようにレポートできる。
- 放送エリアにターゲットは何人いて、当該テレビCMは、そのうちの何人にリーチしたのか
- ターゲットには何人に、どんなフリークエンシー分布で当たっているのか
つまり、1回の人は何人で、2回の人は何人で・・・という具合である。
これらを具体的な事例で見てみよう。
下記は、実際のテレビCM出稿のアクチュアル分析である。ちなみに商品とCM内容からティーンと20代の男性がターゲットと思われるブランドである。
この13~29才の男性の関東地区での人口構成比は10%を割り、9.87%である。アクチュアル650GRPのこのキャンペーンでは、このスポット出稿で、リーチした人のうちのターゲット比率は7.1%となる。また、インプレッション数(CMの表示回数)のうちのターゲット比率はさらに低くなり5.3%である。つまり、このターゲットには約20回に1回しかCMは当たっていない。当然スポットプランとしては若年層の男子に当たるようにしたはずである。この20回に1回という割合は、GRPを1500にしても、2000にしても、3000にしてもほぼ変わらない。
一方で、その分、この若年層向けのCMは、高齢層にはよりたくさん当たっている。
この事例とはまったく別の案件だが、先日来、カップヌードルのCMが話題になっている。まったく別の視点でこの件を論ずると、これはクレームをつけてきやすい層にばかりガンガンCMを当てたから、と言えなくもない。それだけテレビの視聴者の高齢化傾向は顕著であり、「テレビをつければ“コンドロイチン”」なのは正しい使い方なのである。
この場合、やはりオンライン動画からスタートすべきだったのではないかとも言える。オンラインでのターゲティングは「当てたい人に当てる」は当然だが、「当てたくない人には当てない」ということもできる。これは、デジタルのターゲティングテクノロジーのなせる技である。ネットでバズるのも、積極的にシェアするネットユーザーがいて、こういう内容をポジティブに受けとめるかどうかはだいたいわかるように思う。
広告はポジティブに効果を上げるばかりとは限らない。強く刺さるコミュニケーションをしようとすれば尚のことで、これらにネガティブな反応をする人にはあえて配信しない、という選択もデジタルでは可能であることを頭に入れておこう。その点テレビでは誰にでも当たってしまうということだ。
次に、ターゲットごとのフリークエンシー分布である。これを見ると、ティーン男子ではフリークエンシーゼロが、半分以上の52.7%もいるのが分かる。しかも1回~2回もかなり多く、有効フリークエンシーを3回以上と考えても、18.6%しか有効に達していない。前述したがこれもおそらく650GRP程度のプランである。(アクチュアルはもっと少ない)
CMの表示回数、つまりインプレッション数の20回に1回しかターゲットに当たらず、ターゲットの2割しか有効フリークエンシーにならないとしたら、デジタルデバイスでの補完は当然として、深夜でも関東ローカルでもいいから若年層ターゲット向け番組をつくって提供したほうが良さそうだ。
昔は子供もよくテレビを見ていた。若年層にも大人向けのCMに当たることで、ブランドとの接触をまがりなりにもさせてきた時代と違って、いまはティーンにCMは届いていない。20才になって、「はい、今日からあなたはこのブランドのターゲットです。」と言って広告を打ったとしても、そのブランドとのコミュニケーション蓄積がまったくない人が多く出現することになりかねない。ブランドを知らない、反応しない、「So What?」ターゲットをつくらないようにテレビ頼みのブランディング施策を卒業すべきだろう。
次回は、「フリークエンシー過少とフリークエンシー過多の二極化をどう補正するか」です。