広告主視点で語る、「コンサル会社の広告界への参入」が日本で意味すること

広告主はコンサル会社を広告領域でどのように活用すべきか

画像提供:shutterstock

名医と呼ばれる医者はその専門の病気について、まさにそんな類型とそれぞれの症状、進行のパターンを体系的に把握しています。また、何百もの症例を見てきたなかで、当該患者の症状がどれに当てはまるかを適切に診断し、治療戦略を立案することができます。反面、その分野の権威と呼ばれる人でも、お医者さん自身はその病気を罹患したことも、克服したこともない場合が多いでしょう。

医者の不養生とも言いますが、専門分野であれば、リスク要因をよく把握し、日頃予防を意識しているはずです。そんなお医者さんに、我々は「自分で病気を克服したこともないくせに!」とは言いません。このようなことが体系的な知識を重視する論理であり、アメリカで経営学者や研究者、コンサルタントが重視される一つの理由です。

ビジネス上の実績は、“乾布摩擦おじさん”の実績よりもはるかに論理や哲学に基づいており、再現性があるので、実績を重んじるという文化は、決して否定されるべきものではありません。むしろそれが日本の強みであり、江戸時代から連綿と続く実践的な商人哲学が現代にも息づいている証左だと思うのですが、同時に体系的、学術的、科学的な知識というのも、軽視されるべきではないと考えるのです。

コンサル会社の広告事業参入が話題になる前から、メディアバイイングやクリエイティブの提案を伴わない、コンサルティングに特化した広告会社・ブティックエージェンシーがここ数年で増えてきた印象があります。上記のような問題意識から、そんなエージェンシーの方と積極的に話をするなかで実感したことですが、コンサル会社がもたらす最も大きなバリューは、まさにそんな体系的知識によるものです。膨大な事例の引き出しに基づいて、問題を類型的に判断し、適切な処方をする。体系と統計、科学を重んじる価値観は、アメリカで生まれ育ったコンサルという業態の血肉でしょう。

広告もデータドリブンの時代になり、事例の蓄積とその体系的・統計的な整理が可能になったことが、コンサルが広告界に参入している一番の理由だと考えます。彼らの力が発揮できる土壌が整ったのです。グローバル化のうねりがそんな魚群を本邦にも運んできました。日本の広告界には体系的な知識だけでは超えられない障壁がいくつもあることも事実ですが、彼らが医者のごとく体系的に事例を整理し、今日におけるマーケティング課題を類型化してくれれば、それは広告主(患者)にとってはとても大きな助けになります。

クリエイティブやメディアの買い付けなど、広告会社の強みが勝るところも残るでしょう。西洋医学と東洋医学を使い分けるように、それぞれの良さと強みを理解したうえで、広告主はコンサル会社も広告領域において積極的に活用していくべきと筆者は考えます。

実際の成功体験を重視し、体系的な知識を軽視する業界文化、これは当然我々広告主がそういうスタンスで広告会社に相対してきたことに起因します。「ゴタクはいいから、どんな結果だしたのよ」的な広告主の空気が、そんな文化を醸成してきたのです。アメリカ型コンサル業態と日本型広告会社の「上手な使い分け」をするためには、コンサル型=体系的な知識型のプレイヤーがしっかりと日本にも根付く必要がありますが、それにはまずは我々広告主が、体系的・科学的な知識の価値を認識すること。そして、それを広告会社に求め、提供された価値を適正に評価させていただくことが大事なのではないでしょうか。

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井上 大輔(OFFICE pianonoki マーケター)
井上 大輔(OFFICE pianonoki マーケター)

OFFICE pianonoki マーケター。
ヤフー 、ニュージーランド航空、ユニリーバでデジタルマーケティングの責任者を歴任し現職。advertimesコラムニスト。
ツイッター:@pianonoki
著書に「デジタルマーケティングの実務ガイド」

井上 大輔(OFFICE pianonoki マーケター)

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