ロイヤルカナンが大事にする広告では伝えられないリアリティ

ソーシャルメディアの発展で商売の原点に戻る

藤崎実(アジャイルメディア・ネットワーク/クリエイティブディレクター)

藤崎:実は、私はソーシャルメディアやインターネットの普及によって、むしろマーケティングは昔に戻ってきていると思っています。要は20世紀後半の大量生産・大量消費というシステムや、マス広告が効率化を追い求める発想、そのパワフルな仕組みは、むしろコミュニケーションが進化する過渡期のものだったんじゃないかということです。

今回のお客様が大事という話は、いわばお得意様や御贔屓様を大事にするということです。また、企業理念や評判が大事、長期的な視点に立つという話も、いわゆる看板、暖簾という、マーケティングという言葉もなかった時代の、昔の商いの世界ではむしろ当たり前だったことです。つまり、インターネットやソーシャルメディアの発展によって、広告コミュニケーションは商いの原点に戻っている一面があるのではないかということです。

愛澤:外部環境の変化については、私も同じような考えを持っています。

ロイヤルカナンには犬と猫の健康に関して伝えたいことが実にたくさんあります。それは1日、2日では語り切れるものではありません。私たちが培ってきた専門的な知見や私たち自身のこと、犬と猫の健康に関して詳しく知ってもらうためには、様々な角度から語るための時間と労力も必要です。そのひとつの場としてアンバサダー・プログラムがあると考えています。

藤崎:これからの可能性について教えてください。

愛澤:始めたばかりのプログラムですから、可能性ばかりが広がっています。その中であえて言えば、「アンバサダーの皆さまとの共創(Co-クリエイション)」に大きな可能性を感じています。

前述の「猫じゃらしボックス」をアンバサダーの皆さまに試してもらった際のできごとです。「猫は猫じゃらしで運動するのか?猫が実際どのように運動するのか?そもそもなぜ運動が必要なのか?」 など、アンバサダーの皆さまそれぞれが、独自の視点と素晴らしいクリエイティビティをもって、動画や記事で情報発信してくださいました。

明らかに、私たちロイヤルカナンだけでは伝えきれないことを皆さんが伝えてくださいました。きっと、発信した情報を見た他のペットオーナーにとって、健康についてより深く考えるきっかけになったでしょう。私たちはアンバサダーの皆さまの力を信じているのです。

藤崎:課題もお聞かせください。

愛澤:プログラムが目指している「一頭でも多くの犬と猫の健康」を成し遂げるためには、目先のことだけにとらわれない長期的な視点や永続性が必要です。そのためにプログラムに参加する皆さまとのつながりも継続的かつ深いものになるよう、本当に役立つ知識の提供、参加のしやすさ、取り組みの頻度などについての工夫がより一層必要だと考えています。

藤崎:まさしくエンゲージメントが大切というわけですね。

愛澤:工夫の一例として、最近ではプログラムを紹介するWebサイトを改めて、よりアンバサダーが参加しやすいようにしました。こうした細かな改善を今後も積み重ねていきたいと思います。

藤崎:アンバサダー・プログラムをしっかりアピールし、解説もしっかり書かれています。企業理念の延長としてプログラムがあるからこその存在感ですね。

愛澤:イベントに関しては、残念ながらまだ東京でしか開催できていませんが、以前、九州からイベントのためにお越しいただいた方に会えた時は本当にうれしかったです。貴重な時間と労力をかけて足を運んでいただける方がいる以上、私たちとしても期待を裏切らないようにプログラムを充実させていくつもりです。

藤崎:実際のところ、アンバサダーの皆さんはロイヤルカナンのフードにとても愛着を持っていますし、皆さん「犬と猫の健康」への意識や熱意も高いです。企業理念と製品づくりをプログラムが全て一気通貫している好例ですね。家族の一員として犬と猫と暮らしている人が、犬と猫の健康を考えたフードを突き詰めていくと、ロイヤルカナンに繋がるという確固たる存在がありますものね。

愛澤:そのように感じていただけるととてもありがたいです。

今回のポイント

  • 犬と猫の健康に必要な知識を「リアリティ」と共に広く伝えたい。
  • ユーザーとの親密な関係から得られた2つの成果
  • ソーシャルメディアの発展で、ビジネスは商の原点に戻っている
  • 今後のキーワードはアンバサダーとの共創「Co-クリエイション」

今回のまとめ

施策の成果を数値や売り上げに求める傾向がある一方、ロイヤルカナンの場合は「犬と猫の健康」という企業理念に基づく取り組みとしてアンバサダー・プログラムを捉え、お客様との長期的な関係づくりを目指しています。ここから学ぶことが2つあると思いました。

ひとつは「マーケティングとは、売れる仕組みをつくること」という有名な定義に関することです。企業理念の実現を目指すことが結果として利益に結びつくのであれば、それは企業理念が素晴らしいということではないでしょうか。もうひとつは長期的な視点の重要性ですが、これはLTV(ライフタイムバリュー)の視点からも納得ですね。(アジャイルメディア・ネットワーク 藤崎実)

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藤崎実(東京工科大学メディア学部専任講師/アジャイルメディア・ネットワーク エバンジェリスト)
藤崎実(東京工科大学メディア学部専任講師/アジャイルメディア・ネットワーク エバンジェリスト)

博報堂 宗形チーム、大広インテレクト、読売広告社、TBWA HAKUHODO、アジャイルメディア・ネットワークを経て、現職。
変わりゆく広告の最前線を歩み、ファンやアンバサダーに着目した企業のマーケティング活動に従事し、研究職に。
日本広告学会:クリエーティブ委員、産業界評議員、デジタルシフト準備委員会。日本広報学会会員。WOMマーケティング協議会:副理事長、事例共有委員会。東京コピーライターズクラブ会員。カンヌ・クリエイターオブザイヤー他受賞多数。多摩美術大学、日大商学部非常勤講師。

藤崎実(東京工科大学メディア学部専任講師/アジャイルメディア・ネットワーク エバンジェリスト)

博報堂 宗形チーム、大広インテレクト、読売広告社、TBWA HAKUHODO、アジャイルメディア・ネットワークを経て、現職。
変わりゆく広告の最前線を歩み、ファンやアンバサダーに着目した企業のマーケティング活動に従事し、研究職に。
日本広告学会:クリエーティブ委員、産業界評議員、デジタルシフト準備委員会。日本広報学会会員。WOMマーケティング協議会:副理事長、事例共有委員会。東京コピーライターズクラブ会員。カンヌ・クリエイターオブザイヤー他受賞多数。多摩美術大学、日大商学部非常勤講師。

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