市と大学で共同運営する施設
富田林市と大阪芸術大学は、2011 年に連携協力に関する基本協定を締結。以降、広報誌の編集・デザイン、美術や工芸の作品制作・展示など、協同でアートやデザインによる「まちづくり・まちそだて」を行ってきた。その大きな成果の一つが、観光交流施設『きらめきファクトリー』である。
近畿日本鉄道・富田林駅前の、旧170号線に面した好立地の同施設は、1 階には観光案内カウンターが設けられ、地元特産物の販売が行われている。2 階には多目的スペースが設けられており、年間100 万人近い人が訪れる同市の観光拠点としてはもちろん、市内外の人々の交流の場としても活用されている。
この建物の企画・構想には同大学建築学科の加治大輔教授と田口雅一教授、そして学生たちが参加した。かねてより歴史的建造物の活用研究や富田林市の修景を提案してきた加治教授は経験を生かし、用途検討や意匠計画を行った。特に「駅前の現代的、商業的なにぎわい」と「大阪で唯一の重要伝統的建造物群保存地区『寺内町』がある」ことを意識し、伝統的意匠を現代的な解釈で取り入れたデザインを試みた。具体的には本町通りに向けて表と奥を持つ、大開口の多目的「土間」を設け、土間と路地の間に半屋外空間の広い「軒下」をつくった。それによって、建物の中から外の路地へ自然につながる構造となり、イベントスペースとしての活用に広がりが生まれている。
オープン時からほぼ毎月、行われている展示やイベントは従来の観光施設とは異なるアプローチで、地域の人から人気を集めている。例えば世界のボードゲームを集め、実際に遊べる展示、さまざまな視点の富田林の風景を市民に集めてもらう「富田林千景」、ユニークな楽器を100 近く展示し、実際に演奏もできる「音ゼミ」など、どれも展示するだけではなく、地域の人たちが参加できる内容になっている。催事の企画・監修を担当するのは、芸術計画学科の犬伏雅一学科長と同学科の学生たちだ。「多くの市民がつながりを持てる場にすること。そして、市外から人を呼び込むチャネルとして機能させること。ここでの取り組みは、まさに交流の場のプロデュースです。それを実現するためには、従来の観光のリソースだけでは難しい。もっと広い視点で発信できるコンテンツが必要でした」と、犬伏教授は話す。イベントディレクターを務める卒業生の佐々木航大さんは「一見観光と関係ないように思えますが、観光と文化を掛け合わせることで、地域の人たちに街との新しい関わり方や新たな発見をしてもらえたら」という。学生もこの場で多くの人々に関わることで、刺激を受けている。
大阪芸術大学はハード、ソフト両面から同施設を支え、富田林商工会、富田林市観光協会と共に運営に携わっている。こうした形での芸術系大学と自治体の連携は、ほとんど例がなく、富田林市は同大学の活動に期待を寄せている。設立2 年目となる今年は場のプロデュースのみならず、この地域におけるコミュニティデザインをより深めていきたい考えだ。
編集協力/大阪芸術大学