アバターを合成して生放送 演出面でもイノベーション目指す
立花:この番組の制作に携わることで30年後の未来が楽しみに思えるようになりました。ぜひ長生きをして、どういう未来がやってくるのか、自分の目で見たいものだなという読後感が作れたという達成感がありました。私は第3回「人間のパワーはどこまで高められるのか」というテーマで番組をつくりました。人間の意図を読み作業を手助けするウエアラブルロボットなど肉体をパワーアップするものだけでなく、頭脳や精神のパワーアップについても取材しました。今世界中で脳研究の大きなブームが起きていて、巨額な資本が投入されています。その中に、普段使われていない脳のパワーをテクノロジーで引き出す研究があります。脳とAIを合体させたサイボーグ技術の研究も進んでいて、AIと脳が合体すると、人間が不老不死になるというプロジェクトも紹介しました。年齢を重ねて体が老いても、脳が蓄積した情報をデジタルに移せば永遠の命を獲得できる…。こういう話をすると恐ろしいような気もしますが、2045年にはそれが当たり前になっていて、「人間の命に限りがある時代もあったね」と話しているかもしれません。
小川:少しだけ番組の演出面の話もさせてください。「NEXT WORLD」では、番組自体をテレビ放送のイノベーションにしようと試みました。第1回では生放送で日本科学未来館からサカナクションがライブを行いました。テーマは「人工知能が制御する未来のライブ」。コンピューター制御された複数のカメラと画像解析技術などを駆使し、実空間と仮想空間を融合しました。視聴者にも、Webサイトで作ったアバターを通じて、観客としてライブに参加してもらいました。実は、前日のリハーサルでは深夜までアバターの合成などがうまくいかなくて、もし本番で失敗したらプロデューサーが画面に登場しておわびしようかという話まで出ていました。けれど奇跡的に本番だけうまくいったんです。うまくいきすぎて、視聴者に生放送だと分かってもらえなかったほどです。
デジタル部門のプロデューサーとして一番こだわったのは、番組コンテンツへの視聴者の参加です。ウェブサイトでアバターを作る際、普通は自分で好きなパーツを選んで作りますが、NEXT WORLDのアバターは、人工知能がユーザーの入力情報に基づいて提案してくれます。サカナクションによるテーマ曲は、ユーザーの投票システムに基づいて、人工知能がリミックスを行い、進化させていく仕掛けになっていて、放送回を重ねるごとに、曲が進化していきました。
常々、テレビに新しいユーザー参加型の仕組みができないかと考えていて、今回の仕組みを考えてもらったライゾマティクスの真鍋大度さんには「番組をデジタルコンテンツのユーザー参加によってハックしてほしい」とお願いしました。短い時間でもいいから、ウェブサイトでのユーザーの挙動を本編に反映させたかった。現在、テレビとインターネットの融合が急速に進んでいます。そういう時代になった時に、今までと同じようなコンテンツを作っていてもいいのか? テレビ局が生み出すコンテンツを進化させるには、放送業界以外の才能とコラボレーションしなければ、未来はないと思っています。