戦略策定に必要なのは「なぜそれを選ぶのか」
通常、組織の構造は、長い時間をかけてそのビジネスモデルや環境に最適化された結果なので、経営者が前提となる条件が変わったと考えるだけでは、うまくいくはずがありません。
最近は、アジャイルといった特定の方法が注目を浴びているせいか、本来はクラシカルな戦略が適した市場に、無理やり可変性が高い「アダプティブな戦略」を実行しようとする経営者がいることも、さきほどの書籍では指摘しています。
さらに興味深いのは、「自分たちの力で市場(ゲーム)のルールを変えられる」といった、自らの企業力を過信している経営者が多いとも指摘していることです。本来ならば、クラシカルな戦略が適した市場、もしくはアダプティブな戦略を選ぶべきなのに、ビジョナリー型の戦略を選ぼうとする企業が多いと言います。自分たちが重要なプレーヤーであるという自負は、ビジネスの客観的な分析の結果というより、企業の意志やモチベーションに起因するように思います。
BCGのタイプ別戦略論は、事業自体がビジネス環境や前提に左右されるという意味では非常に明快なのですが、これはある意味、多くの企業にとっては当たり前のことです。本来の戦略性とは、これらの戦略を器用に変えたり、組み合わせたりすることで競争優位を保つことが鍵になってきます。このタイプ別戦略は、同じ環境に属する企業が、どうそれを勝ち抜くべきかまでは示唆を与えてくれません。
彼らの議論は、ある意味で非常に構造主義的なので、企業の主体性そのものは問われていないのです。そこには何をどうやって、という方法論についての分析は明確なのですが、「なぜ?」が徹底的に欠けているように思います。
そのような課題に対する一つの示唆は、最近読んだコンサルティング会社のプライスウォーターハウスクーパース(PwC)が書いた『Strategy That Works』 (邦訳未発売)という戦略論です。こちらもBCG同様に特定位の企業に対する分析ではなく、彼らが優れていると考える企業の戦略についてまとめたプラクティスです。興味深いのは、そのポイントを「戦略と実行のギャップを埋めること」としています。