『広報会議』で約10年間、「実践!プレスリリース道場」を連載している井上岳久です。この連載を10年間続ける中で約120社のプレスリリースを取材・分析してきました。今日は「広報で勝ち抜く企業」というテーマで、広報が上手く機能している企業やメディア露出につながる企業が持つ、いくつかの共通点についてお話したいと思います。
近年、商品開発から販売戦略まで、すべてのマーケティングの柱としてPRを据える「マーケティングPR」という考え方が広がり、広報がとても世の中で注目されていることを体感しています。例えば、マーケティングPRを取り入れていない企業は機能性や安さといった消費者目線のベネフィットだけで商品を開発しますが、それだけではメディアは動きません。そしてこうした企業はコミュニケーションプランや販売戦略の策定に、広報が参加していません。予算に余裕があれば広報に流して、それによってうまくいけばラッキー、という程度の意識しか持っていないのです。
一方、マーケティングPRで成功する会社の商品開発は商品の企画会議から広報が参加して、コンセプトの開発からネーミング、販促計画まで、すべてにわたってPRの視点でメディアに注目される要素を盛り込んでいきます。メディアが「お! 」と注目するようなニュースバリューのある商品ができれば、広報がプロモーションを実施するとき、メディアはそれを大々的に取り上げます。さらに営業も広報と一体化していて、テレビや雑誌で取り上げられたことをアピールしながら市場に嵐を巻き起こす勢いで商品を売り込んでいきます。そうなると、商品はどんどん売れていきます。
PRの弱点は、時間の経過とともにメディアに取り上げられにくくなっていくこと。そうしたときに初めて広告を投下します。PRを柱にして商品が継続的に売れるようにしていく手法。それがマーケティングPRです。
様々な施策を組み合わせる
私はこれまでいろんな会社を見てきましたが、マーケティングPRが成功するのは、「PRを本格的にやっていこう」「広報で会社を先導しよう」という勢いがあって、広報やPRの様々なテクニックを使いこなすスペシャリストがいる会社です。そういう会社は商品やサービスが売れていき会社の知名度も上がり、ブランディングの勢いも増していきます。
例えば、近畿大学の広報部を率いるのは、近畿日本鉄道広報出身の世耕石弘さんという有名な広報のスペシャリストです。彼は、大学からネタがあがってくると、これをどう広報で料理してやろうか、と考えるそうです。
2015年7月の土用の丑の日には、近畿大学が開発した「うなぎ味のナマズ」が話題になりました。かなり盛り上がり、メディアも取り上げました。
実はこのナマズは、2015年2月にはほとんど発表できる段階まで研究が進んでいたそうです。普通なら、その時すぐにリリースで発表したでしょう。でも、一流の広報パーソンは違います。まず、うなぎ味のナマズの話題が一番盛り上がる時期を7月の「土用の丑の日」だと見極めます。そしてそのタイミングが最大のピークとなるように照準を合わせて戦略を立てて、リリースを打ちます。うなぎは絶滅危惧種であることを憂うべきだといった啓蒙PRや試食会を実施することで、うなぎ味のナマズは有名になりました。このように、PRを軸に様々な手法を戦略的に使いこなしてこそ、マーケティングPRは実践できます。