売れる「販促アイデア」の企画・発想術~販促コンペ・グランプリ受賞者 座談会~

—普段はどのようにしてアイデアを発想していますか?

原田:僕はまだ勉強中の身ですが、最初に、明確なビジョンをつくるのが大事だと常々考えています。その商品をどうしたいか、どんな人に飲んでほしいか、どんな気分で食べてほしいのか、どんなお店に置いてほしいかなど、できるだけ具体的なビジョンを作るように心がけています。

菊池:僕はコピーライターですが、今はプランニングにもかかわっています。コピーだけ書くのではなく、プランニングを一緒にできるようなハイブリッドクリエイターを目指しています。広告を作るのは目的ではなく、人を動かすための手段です。見て終わりではなく、なるべく人が実際に動くことを意識して企画を発想するようにしています。

事例を挙げると、モンスターストライクとルパン三世がコラボする企画では表参道と渋谷にポスターを207枚ゲリラ的に貼るといったユーザー参加型の企画を行いました。結果、1週間で50万ツイート達成し、多くのモンストユーザーとルパンファン層を動かすことができたと思います。

瀧澤:僕はアイデアを発想するにあたって、意識的にやっていることが2つあります。

1つは、「よく観察する」ということ。例えば、駅のホームにある自動販売機の売り上げをあげる方法を考えてみます。いろんな施策があり得ると思いますが、デザインコンサル会社IDEOのアイデアは「自販機の上に時計をつける」ということでした。彼らは実際に駅のホームに張り付き、人々の行動を観察し続けたそうです。その結果、「ホームにいる人はみんな時間を気にしている」ということが分かりました。そこで、自販機の上に時計をつけることで自然と自販機が視界に入り、売り上げもあがったのだそうです。つまり、アイデアのヒントは社内やインターネットにはなくて、実際の現場に足を運び、自分の目でじっくり観察することが大切なんだと思います。

もう1つは、「リフレーミング」という考え方です。ある時、子どもに電車の絵を描かせようとしたら、電車ではなく線路を紙に描き、その上をおもちゃの電車を走らせて遊んでいた、ということがありました。自分は、子どもはお絵描きをするものだと決めつけてしまっていましたが、本人はこの方が楽しいと直感的に行動していたわけですね。大人になると、どうしても無意識にさまざまな既成概念にとらわれがちです。子どもや鳥、宇宙人になりきってみるなど、さまざまな視座から物事を眺めることで、新たな価値を生み出していくことができると思います。

—チームでアイデアを出していく時は、どんなふうにされていますか?

原田:例えば、養命酒の企画に関しては、とにかく40代のお母さんが何者か、ということをチームのメンバーで徹底的に考えました。40代のお母さんといっても白金台に住むような人もいれば共働きの人もいる。お母さんの最大公約数と養命酒のちょうど中間はどこなのか。「40代のお母さん」をキーワードに、連想ゲームのように発想していきました。販促の企画を立てるときに、一番大事なのはターゲットだと思います。そのターゲットが何を求めているか、ターゲットである40代のお母さんのインサイトについて、一番時間をかけて話し合い、チームのメンバーで、共通の認識を持つようにしました。

菊池:チームで仕事をするためには、チーム内で「これだよね」というものを一つ作れば、それぞれ正しい努力ができて、いい企画ができると思います。みんなで話し合い、最初に方向を決めることは、一番注力するべきだなと思います。

原田:そうですね。チームのみんなが、ゴールはどこなのかが見えていないと、人だけ多くても意味のない打ち合わせになりがちです。クライアントとの打ち合わせでも、何が言いたいかはっきりしないことがありますが、それをいかに聞くことができるか、というのもクリエイターやプランナーの仕事だなと思います。あと、顔を合わせて話をするということもすごく重要。顔を合わせて話をすることで、アイデアが出てくることは多いですね。

子どもの視点によるリフレーミング
電車の絵を描くのではなく、線路を描きおもちゃの電車を走らせて遊ぶ。さまざまな視座から物事を眺めることで、新たな価値を生み出していくことができる(瀧澤氏)。

瀧澤:自分はプランニングもしますが、最近は「共創の場づくり」から始めることが増えてきました。クライアントとのチームビルディングやビジョンメイキング、ユーザーとのリサーチやインサイト探求、社内でのブレストなど、さまざまな場面や目的で「共創型ワークショップ」を実践しています。

例えば、デジタル・テクノロジー系の協力会社と読売広告社との共創で、各社の混成チームにてリサーチからアイデア発想、企画にまとめてクライアントへ提案する、といった取り組みを行っており、実際に具体的な成果もあがっています。

ワークショップではアイデアを発想するヒントとして、「10分間で100個のタッチポイントを出す」というワークを行いました。とはいえ、いきなり「100個のタッチポイント」が出てくるものではありません。この時は、アイデア発想の準備体操として「30 Circles Challenge」という手法を活用しました。

30個の丸が書かれた紙が渡され、30秒間にたくさん丸いものを描きます。サッカーボールや野球ボールなど、とにかく時間内に1つでも多くの丸を埋めていきます。このようなアイスブレイクを兼ねたトレーニングを行いながら、メインワークである「100個のタッチポイント出し」へと進めて行きます。その後は、それらのタッチポイントとの掛け合せによる「強制発想」と、「カスタマージャーニー」によるユーザー視点からの発想、2つの異なるアプローチからアイデア発想を行っています。

菊池:とにかく案をたくさん出すことは、大事だと思っています。例えばコピーを100案書く。比喩じゃなく本当に100本、なんでもいいからアイデアを広げて書いて、散らかす。散らかす、選ぶ、磨くという3段階を経て、アイデアがどんどんいいものになっていくのだと思います。まずは、アイデアに制限を決めず、これが面白いという判断をせずに、なるべくたくさん出すことが大事です。チームといっても、個人で成り立っているので、チームでやるときも一人で考える時間は大事だと思います。

瀧澤:そうですね。アイデアをどんどん出していくと、膨大なボツ案が生まれることになります。でもそれが大事で、多量のボツ案があることで、「本当に良いアイデア」の判断できるようになってきます。たくさんアイデアを出すということは、良い企画の大前提だと思います。

あと最近、課題がすごく複雑になってきていて、それを解決するにはより広範囲な専門知識が必要だと感じます。そういったときに、いつでも気軽に相談できる専門家の知り合いがいるかということも重要です。自分も専門的で分からないことがあったら、すぐ詳しい知人に連絡して、その日にオフィスに行って話を聞く、ということをよくやります。

共創型ワークショップの会場風景
壁面には「100個のタッチポイント出し」による大量の付箋紙が貼られ、アイデアを発想する際の刺激となっている(瀧澤氏)。

─企画書は、実際にアイデアを実現する時、いろんな人に伝えるためのひとつの方法だと思います。アイデアを企画書にまとめていくとき、どういうことに注力していますか?

菊池:社内の若手社員向けにコピーライティング&プランニング研修をやっていますが、いい企画やプレゼンには、絶対に3つのKEYがあると言っています。KEY WORD(キーワード)、KEY VISUAL(キービジュアル)、KEY PERSON(キーパーソン)です。その3つは、特に意識しています。キーワードとキービジュアルがキーパーソンに伝わり、自分と一緒に仕事をしたいと思ってもらえたら勝ちだと思います。

また、いい企画をしても最後が尻すぼみ的に終わると印象が良くないので、最初につかむパンチとオチのページで、ストーリーを作るということも重要です。最初と最後がつながっていると、ちゃんと芯のある企画書に見えるものです。ストーリーでいうともう一つ。その企画が通った後の未来図を描くというのも有効です。この企画が実現したら、こんなふうに流行るというイメージを見せて、クライアントの想像力を補ってあげると、選びやすくなると思います。

瀧澤:企画書を作る上で気をつけているのは、企画をプレゼンしてYESかNOの判断を仰ぐのではなく、企画書がクライアントと一緒により良いものを作るための「コミュニケーションツール」になっているべきということです。本当に決めるタイミングであれば、しっかりキレイに企画書を作り込みますが、まだどうなっていくか見えていないときは、あえて手書きの状態で見せることもあります。キレイに仕上がった企画書は直しづらいですが、手書きの企画書はその場ですぐに書き直せるので、クライアントと一緒に議論するためのコミュニケーションツールとして機能します。

原田:僕はお二人のように、確固とした技術はありませんが、企画やプロモーションの奥にある、こうなりたいというクライアントのゴールを共有することを第一に考えています。そこさえYESであれば、あとはお金や技術的なことはいくらでも変えられるので。あと、文字を少なくしたり、できるだけ絵を使ったり。うちの祖父母とか広告界と関係ない人でも理解してもらえるくらい伝わるものを作るように心がけています。

─実際のプレゼンのときは、どのようなことに注意していますか?

菊池:企画書は、自分のやりたいことを実現させるための手段ではあるけれど、目的ではありません。最終的には、企画書も何もなくても、自分のやりたいことを、クライアントのやりたいことにしてしまえばいいのだと思います。ポイントとしては、それぞれの思惑があるプレゼンターとクライアントが、プレゼンを通して、同じ想いになるというところを意識しています。

瀧澤:僕もまったく同感です。受賞した富士フイルムの企画でも、「本当に自分が欲しいもの」をとことん考え抜いて提案した結果、商品化までしていただきました。また、プレゼンされる側の気持ちになってみるというのも、すごく大事だと思います。企画書って、どうしても自分視点になってしまい、クライアントの想いとズレてしまうことがあると思うんです。このプレゼンを受けたとき、クライアントはどう感じるのかということを、客観的にシュミレーションしてみることは効果的だと思います。

あと、プレゼンのときは相手の様子をよく観察します。企画書を読み上げるだけでなく、なるべくインタラクティブなやり取りが生まれ、お互いに理解しあっている状態を作りだすことを意識しています(敬称略)。

ツカミとオチ
企画書では、「ツカミとオチ」を意識しているという菊池氏。企画書の1ページ目と最終ページのデザインを連動させることで、プレゼンを聞いている人に一貫したプレゼンであることを印象づけている。

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