民間企業から自治体へ
編集部:本日は各自治体でシティプロモーション、観光・移住促進など、地域の広報分野で活躍されている方々にお集まりいただきました。皆さんの共通項は「民間企業の出身」ということで、ご経歴含め、その知見からどのような活動をされているかを教えていただければと思います。
取出:私はIT業界の出身でして、以前はインテルという会社でエンジニアとして入社し、働いていました。ですから元々は広報の専門家というわけではないんですね。
2015年4月から茨城県広報監として働いていますが、2013年の4月から県の広報広聴課で広報ICTディレクターとして常駐していたことも。その後インテルを退職して、現在に至ります。広報誌のオープンデータ化や、2012年10月に誕生したネット配信の行政動画サイト「いばキラTV」なども担当していて、自治体におけるIT活用の促進に取り組んでいます。
編集部:「いばキラTV」は行政動画としては日本一とのこと。年間で何本くらい公開していらっしゃいますか。
取出:1000本くらいです、ちょっと多いですよね(笑)。元々は「茨城には県域の民放テレビ局がない」というのがプロジェクトのきっかけでした。
編集部:1000本はすごいです。今でこそ注目のPR動画ですが、県としても早くから力を入れていらっしゃったということだと思います。それから横須賀市の奥村さん、白川村の大倉さんは広告会社ご出身なんですよね。
奥村:はい。広告会社などに18年間勤めた後、2010年5月から横須賀市役所で働いています。入庁してから4年間は観光・集客プロモーションの業務を、その後2年間は住むまちの魅力を創造したり発信する「住むまち 横須賀」のブランディングを担当しています。
大倉:私も広告会社やモバイルベンチャーを経て、2014年4月から岐阜県白川村の役場で「地域おこし協力隊」として勤務しています。
編集部:大倉さんには出張先の北海道から駆けつけていただきました。日ごろ、白川村でも着用されている「制服」のツナギで登壇いただいています。
大倉:そうなんです。「地域おこし協力隊」は総務省の制度で、地域外の人材を積極的に受け入れて協力活動を行い、その定着・定住を図ることで地域力の維持・強化を図るという施策です。2009年に始まり、全国で2625人が活躍しています(2015年度実績)。任期は最長3年で、私自身は白川村で観光政策などの立案や実行のセクションに所属しています。
茨城県
「広報監」としての主な活動
①研修・コンサルティング:県、市町村のスキルアップが目的
②広報のネタづくり:部局横断、官民・民間同士におけるマッチメイク、IT業界との連携など
③IT活用:SNS活用、動画サイト「いばキラTV」、広報誌のオープンデータ化など
④シティプロモーション:県南7市町村との勉強会、市町村のアドバイザーなど
「情報発信の必要性」を説く
編集部:今、注目を集めている「地方創生」にはPRの力が必要だと言われていると思います。皆さんの現場の実感としては、いかがでしょうか。
奥村:最近感じているのは、地方創生の流れの中でようやく、本格的な地域PRができる時代が訪れ始めているということ。いかにこの流れに乗ることができるかが課題と思っています。
大倉:まさにそのとおりですね。PRを行うことが求められつつも、ノウハウや人材が足りない自治体の中で、広告会社などエージェンシー出身者が持つ「外部の知見」は結構重宝されるのではと感じています。
奥村:地域PRで大事なことは、地元の魅力が伝わる仕掛けづくりと地元をPRする必要性についての説明をバランスよく進めていくことです。民間とは異なり自治体ではあらゆる立場の方へ説明する場面を想定しながら進めることに慣れることが重要になります。
大倉:同感ですね。自治体のPRというのは、広告ビジネスのようなアプローチだけでは最適解にならないのだと思うんです。確かにKPIを設定したり数字を追いかけたり、成果物として活動の結果を形にしたりすることは大事です。ただ、住民にとってのメリットがあるかというと、そういうわけではないですからね。
取出:この数年で自治体のプロモーション施策も増えていますからね。「ウェブで話題になった」「メディアで取り上げられた」という事実は喜ばしい一方で、実は市民にとっては他人事でしかない、という側面もあるんですよね。熱心なシティプロモーションの担当者の方々はそこに気づいていて、「PR偏重にならないように」ということを念頭に置いていると思います。
大倉:KPIを追うというような「行為」だけに焦点を当てるのでなく、住民自身が課題を抽出したり何をPRするかを考えたりすることで当事者意識を持つというような、PRという「行為の経過」に価値があると思います。
取出:ただ、そもそも茨城は「PR下手」だと言われているんです。それは確かにそうで、例えばメディアの方が取材に来て地元の人に「何かこの辺りでおいしいものってありますか?」と聞いても、皆「な~んもねえよ」と言ってしまうんですよね。だからブランド総合研究所の「都道府県魅力度ランキング」で3年連続最下位という偉業を成し遂げているわけなんですが(笑)。
とにかく自治体はPR対象が幅広いですし、横並びでありたいという意識も強いですからね。特に県という規模になると、市町村がそれぞれ自主的に情報発信できるようになる必要があると思っています。そこでこの1年、取り組んできたのが、各部門・市町村などに対して「行政の情報発信の必要性」を理解してもらう研修ですね。
編集部:今日も会場に、茨城で取出さんとともに活動されている市の広報課の方、情報を発信しているNPOの方にも来ていただいていますよね。
取出:はい。行政がPRをする必要性や意義を認識してもらい、その上でテクニックなどを紹介しています。最近ではSNS活用などについて話す機会も増えていますし、つくば市などがある県南7市町村でシティプロモーションにまつわる定期的な自主勉強会を行っています。
奥村:SNS活用という意味では、社会的に影響力のあるインフルエンサーの力を活用することも非常に重要だと思います。実際に横須賀では「こども政策アドバイザー」として、駒崎弘樹氏(フローレンス代表理事)、小室淑恵氏(ワーク・ライフバランス社長)、東京大学大学院の開一夫教授をお招きしました。主な仕事は市の子育て政策などへのアドバイスなのですが、あわせて発信のご協力もお願いしました。
皆さん、Twitterでは何万ものフォロワーがいたり、テレビ番組に出演していたりとメディアやSNS上での影響力がとても強いので、自治体としてのPRが加速したと実感しています。