7つの戦略論をコンパクト解説 その2「ダイレクト論」「IMC論」

【前回コラム】「7つの戦略論をコンパクト解説 その1「ポジショニング論」「ブランド論」「アカウントプランニング論」」はこちら

書籍『手書きの戦略論』も発売から2週間。売れているみたいです(涙)。GW前に重版が決まり、「重版出来」のよろこびも実感できました。早くもいろいろな感想をいただいていて、その中には総合代理店の若手からの「もっとダイレクトを勉強しないといけないと思いました!」という意見も。これ、僕もすごく同意します。とくにマス広告を中心にキャリアを積んできた人こそ、ダイレクトの勉強をしたほうがいい。僕自身も、この本をまとめる過程で、ダイレクトの知識が整理できてとてもよかったと思っています。

さて、前回に引き続き、7つの戦略論のエッセンスをお伝えするコラムの2回目は、その「ダイレクト論」と「IMC論」です。どちらもお客さんの行動データをもとに、緻密に戦略を組み立てていく理論であり、近年進化が著しいジャンル。コンパクトに解説していきましょう。

広告業界の人が、いまダイレクトを学ぶべき3つの理由。

4. ダイレクト論:「反応」の喚起が、人を動かす。
お客さんの直接的な反応を受け止めながら、長期的な関係をつくる戦略。ネットの運用型広告もこの戦略論が下敷き。顧客獲得後はCRM(Customer Relationship Management=顧客関係管理)を活用する。

前回のコラムで紹介した「ポジショニング論」「ブランド論」「アカウントプランニング論」を主に活用してきたマス広告系の方にとっては縁遠いかもしれませんが、アメリカではすでに、マーケティング予算の半分以上を占めているダイレクト広告。

極端に言うと、ダイレクト論は「反応」がすべて。マス広告(ブランド論等が中心)は「AIDMA」(Attention:注目、Interest:興味、Desire:欲求、Memory:記憶、Action:購買)という購買プロセスモデルをベースにしていますが、ダイレクト広告はM(Memory)がない「AIDA(アイーダ)」というモデルを使います。つまり、記憶をすっとばして、その場で「反応」(購入、あるいは問い合わせ、サンプル申し込み、クリック、いいね!、サイト来訪等)を得ることを目指します。そして〈潜在顧客→見込み客→新規顧客→リピート客→ロイヤル客〉と顧客を育成していき、LTV(Life Time Value=生涯顧客価値、ひとりの顧客が取引期間を通じて企業にもたらす総利益のこと)を最大化するのが目的です。その細かい手法に関しては書籍を読んで頂くとして、ここでは、進化の著しいその歴史を確認したいと思います。

 

ダイレクト確立期
発祥はアメリカ。国土の広いアメリカでは、19世紀からメールオーダー(通信販売)が発達していました。1960年代には「ダイレクトマーケティングの父」レスター・ワンダーマンがこの理論を提唱。

CRM登場期
「ワンツーワンマーケティング」「CRM」など、データベースをもとにしたマーケティングが発展。どちらも、それまでの新規顧客獲得に偏ったマスマーケティングを批判し、既存客一人ひとりとのインタラクティブな関係構築を重視した考え方。

ネット広告期
2000年頃から急速に拡大した、eコマース市場。広告集客から販売までをネット上でできるeコマースは、まさにダイレクトマーケティングにうってつけ。ダイレクト論の遺伝子を引き継ぎ、ターゲット精度向上を目指して、さまざまなネット広告とアドテクノロジーが生まれます。

データ統合期
ネット広告の買い付けや配信、効果検証ができるプラットフォームが整うことで、より効率よく、より自由に媒体の売買が行えるように。現在では、顧客になる前から商品購買後まで、すべての段階をデジタルデータで紐づけられるように。

こうして歴史を見て行くと、なぜダイレクトを学ぶべきかが浮かび上がってきます。具体的に言うと

  1. デジタル進化の恩恵を最も受ける戦略論だから
    昔なら膨大すぎてできなかったデータベース管理がデジタル化によって可能に。Cookie等によって購買前から後まで顧客の行動が把握できるように。ダイレクト論はもっともテクノロジー進化の恩恵を受けています。
  2. 顧客が見える、投資対効果が見える戦略論だから
    顧客はどう動いているか。いくら広告投資したら、どのくらい効果がでるか。どこを改善すべきか。可視化できるので、経営と直結できるのです。逆に可視化できない効果は無視するという割り切りのある戦略論です。
  3. 売れない時代に、「売り」に最も近い戦略論だから
    広告そのものが店舗となる戦略論であり、売りやすい人を見つけ出し、売り切る所まで行なえる魅力がある。

どうです?これは勉強しなくちゃと感じてきませんか?

次ページ 「なぜ、統合の起点はカスタマージャーニーでなければならないのか?」へ続く

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磯部 光毅
磯部 光毅

アカウントプラナー
1972年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、1997年博報堂入社。ストラテジックプランニング局を経て、制作局(コピーライター)に転属。2007年独立し、磯部光毅事務所設立。主な仕事に、サントリー「JIM BEAM」「ザ・プレミアムモルツ」「伊右衛門」「伊右衛門特茶」、トヨタ自動車「G's」、ダイハツ「タント」、コーセー、KDDI、Google、味の素、AGF、花王、ティファニー、ブリヂストン、三井不動産、カルビーなど。ブランドコミュニケーション戦略を核に、事業戦略、商品開発からエグゼキューション開発まで統合的にプランニングすることを得意とする。受賞歴にニューヨークフェスティバルズAME賞グランプリ、ACC CMフェスティバル ME賞メダリストなど。著書に『ブレイクスルー ひらめきはロジックから生まれる』(共著、宣伝会議、2013年)、『アジアマーケティングをここからはじめよう』(共著、PHP出版、2002年)、『ニッポンの境界線』(共著、ワニブックス、2007年)がある。

磯部 光毅

アカウントプラナー
1972年生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、1997年博報堂入社。ストラテジックプランニング局を経て、制作局(コピーライター)に転属。2007年独立し、磯部光毅事務所設立。主な仕事に、サントリー「JIM BEAM」「ザ・プレミアムモルツ」「伊右衛門」「伊右衛門特茶」、トヨタ自動車「G's」、ダイハツ「タント」、コーセー、KDDI、Google、味の素、AGF、花王、ティファニー、ブリヂストン、三井不動産、カルビーなど。ブランドコミュニケーション戦略を核に、事業戦略、商品開発からエグゼキューション開発まで統合的にプランニングすることを得意とする。受賞歴にニューヨークフェスティバルズAME賞グランプリ、ACC CMフェスティバル ME賞メダリストなど。著書に『ブレイクスルー ひらめきはロジックから生まれる』(共著、宣伝会議、2013年)、『アジアマーケティングをここからはじめよう』(共著、PHP出版、2002年)、『ニッポンの境界線』(共著、ワニブックス、2007年)がある。

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