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編集部では5月9日~12日(現地時間)まで、米国・ラスベガスでMarketo(マルケト)が開催したイベント「THE MARKETING NATION SUMMIT」を取材。現地にて、2016年2月にマルケトとの戦略的パートナーシップ契約を発表したWunderman(ワンダーマン)のグローバル・チーフ・マーケティング・オフィサーにインタビュー。激変するデジタル時代のマーケティング市場について話を聞いた。
—「AdAge」発表の世界のデジタルエージェンシーランキングで、上位10社に入っている企業のうち、広告会社系グループはWPPに属する、ワンダーマンのみ。他はコンサルティング会社が占めていた。いま、市場で何が起きているのか。
伝統的なエージェンシーグループに属する企業でランキングに入っているのは、ワンダーマンだけであった。これは、産業界が大きく変わったことを意味している。ランキング上位に入るコンサルティング会社は、相次いでエージェンシーを買収しているが、逆にそれがワンダーマンにとっての大きな機会があることの証明であると考えている。
なぜ、彼らはエージェンシーを買収するのか。それはデジタル時代のマーケティングはテクノロジー、データ、戦略に加えて、クリエイティブ、コンテンツが必要であるからだ。私たちはすでにそれを全て1社で兼ね備えているということを強く主張したい。
—クリエイティビティを他社の買収により得る会社と、もともと持っていたワンダーマンとどちらがこの市場では優位に立てると思うか。
どちらが強い、弱いという話ではない。データ、テクノロジーに対する理解だけでは不十分で業界別の消費者行動のパターンを理解できる人が必要だ。最終的には消費者とのあらゆる接点、さらにデバイスを介して得られるデータを基に、消費者を理解し、その行動パターンを理解し、また行動の仮説を立てられる人材のいる企業が優位に立っていくのだと思う。
—ワンダーマンは2016年2月にマルケトとの戦略的パートナーシップを発表した。その狙いは何か。
マルケトは素晴らしいテクノロジーとデータを提供してくれる会社だ。しかし、ブランドはテクノロジーとデータだけではつくれない。戦略、クリエイティブ、コンテンツが組み合わされることで、その価値が最大限に発揮される。そして、この戦略、クリエイティブ、コンテンツを提供するのが我々の役割だ。互いの強みを持ち寄り、補完し合うことでクライアントに価値を提供できる、素晴らしいアライアンスだと考えている。
私たちには業態別に様々なマルケト活用のノウハウがある。マルケト導入時に、ワンダーマンをパートナーに選んでもらえれば、より短期間で使いこなせるようになる。
—マーケティング・オートメーションツールの導入期にあたる日本と違い、すでに導入が進む成熟環境にある米国では、どんなことが課題となっているのか。日本とは異なる課題があると想定する。
米国では今、データマネジメントの課題が多くの企業に共通してあがってきている。一つはデータのサイロ化の問題だ。部門にデータが分散し、統合的な顧客理解を阻んでいる。
また、取得できるデータ量が格段に増えたため、データからインサイトを導き出すことが難しくなっている。データは大量にあるけれど、インサイトには飢餓している状態というのが、現在の課題だと思う。
顧客については、その人の属性や、また誰であるかが理解できるだけでは不十分だ。その人が何を望んでいるかを知ることができて、エンゲージメント構築につながる体験を提供できる。
—データのサイロ化の課題解決には組織変革も必要ではないか。そうした組織の変革についてもワンダーマンが提案し、関わることはあるのか。
私たちが、クライアントの経営に関わるようなことまで口出しをすることはない。ただ実際に動き始めてみると、私たちが提案をしなくても、企業内で、サイロを壊す必要性に気づき、そのリーダー役を率先しようという人が出てくるものだ。私たちはそうした気付きを持った人をサポートしている。
—クライアントのサポートをする際、どこまでワンダーマンの社員が関わるのか。
クライアントともにチームを組んで、私たちのメンバーが数カ月オフィスに常駐して一緒に働く。まずは、COE(センター・オブ・エクセレンス)を立ち上げることが重要で、その組織を介してクライアントとともにデータからインサイトを得て、戦略に生かす視座をつくる。さらに、それを全社に向けてアピールしながら、サイロを切り崩すような働きを目指している。
—ワンダーマンの出自はダイレクトマーケティングである。その企業がどうやって社内にデジタルに対するリテラシーを身に着けさせたのか。
私たちは、ダイレクトマーケティングから始まった会社であり、そのことが今も強い資産であると信じている。私たちのCEOは、すべてのマーケティングがダイレクトマーケティングであり、またCMOがセールスの成果へのコミットが強く求められる時代においては、さらにそのノウハウが強く求められていると話している。
社内の人材教育については、データサイエンティストにはクリエイティブの言語を、クリエイターにはデータサイエンティストの言語を話せるようなトレーニングをしてきた。異なる専門を持つ人たちが、共通の言語を持つような環境設定、トレーニングが必要で、そこでは互いに学び合う姿勢が大事だ。今、クライアント企業においては組織のサイロ化が課題となっているが、これも部門間の共通言語の欠如が原因と考えている。
デジタルテクノロジーの進展とマーケティングの進化によりデータサイエンティスト、クリエイターとはまた違う、さらに新しい言葉が生まれつつある。その言葉を理解することが、クライアントとのパートナーシップ構築にもつながると考えている。
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