講演者
- 北川一也(コーセー 執行役員 宣伝部長)
- 田口みやま(TOTO 販売統括本部 メディア推進部 部長)
市場が飽和しておらず、経済成長に合わせて日本人の需要が右肩上がりに伸びていった時代には、パーチェスファネルのすそ野をいかに広げるかが重要であり、「認知」に軸足を置くマス広告の活用が、企業の売上に大きく貢献してきた。
しかし今は、「認知」してもらっただけでは行動を喚起することは難しい。特に、すでに高い認知度を誇るロングセラー商品では、テレビを中心としたマス広告だけで課題を解決するのは難しく、リーチ至上主義だけでは立ち行かなくなっている。今、宣伝部門にあらためて求められる「人の行動を喚起する」企画と実践について、いま考えていること・取り組んでいることを聞いた。
部門内、部門間 両方のシナジーが求められる
――社内での宣伝部門の位置づけや役割についてお聞かせください。
北川:コーセーの宣伝部では、企画プロモーションからPR、制作・クリエイティブ、店頭什器、店舗設計までをワンストップで行うのが大きな特徴です。宣伝企画PR課 企画グループでブランドプロモーションの企画や媒体の発注、Webサイトのデータマイニングや調査などを行い、それを元に宣伝制作課がプロモーションや宣伝を制作、それを今度はPRに展開するという具合に、宣伝部全体でのシナジー効果も期待しています。ブランド事業部ともディスカッションを重ねてブランド価値を高める策を練っています。
田口:TOTOの組織は、研究開発から商品の企画開発などを担う「もの創り事業担当」と「地域別の販売担当」に分かれ、前者はトイレやキッチンといった商材別、後者は国内外のリージョン別になっています。私が管轄するメディア推進部は日本の販売グループで宣伝を担っており、特に国内のセールスプロモーションと一体になったコミュニケーションが期待されています。業務は、販促に直接かかわるコミュニケーションとコーポレートコミュニケーションの2軸からなり、媒体の選定を行い、最適な接点・最適な形でお客さまに伝えることが大きな役割となります。トイレを当社から直接ご自分で買ったことがある方はいらっしゃらないと思います。必ず間に業者が入って、お買い求めいただくので、当社のコミュニケーションはBtoBでもないしBtoCでもない、「BtoBを介してお客さまに働きかける」というような、BにもCにも響くコミュニケーション設計が求められます。
――業務を進めていく中で、現在、課題に感じていることはありますか。
北川:商品を買っていただくために宣伝をしていますから、我々に求められているのは、店頭までの動線をどう強化するかに尽きると考えています。どんなテクノロジーを活用すれば、購買に結びつけることができるのか――判断が難しいところです。通常、メーカーは、お客さまの購買データを持っておらず、お客さまがどのようなタイミング、シチュエーションで商品を購入したか、正確なところはわかりません。この状況をどう乗り越えるか、今まさに模索しているところです。
田口:同じく、動線をどうつくっていくかは大きな課題です。TOTOが扱うトイレ、キッチンなどの商材は購買サイクルが最低でも10年、平均20年ほどです。また購買プロセスが非常に長く、買いたいと思ってすぐに買う商品ではありません。一般のお客さまが一人で自宅に設置可能な商品を特定することはほぼ不可能で、必ず設計士や工務店、リフォーム店などの助言や推奨によって購入に至ります。メディア推進部の役割は、広告の力でお客さまのモチベーションを高め、次の購入ステップに進んでいただくこと。テレビCMを見ただけでは「トイレを買おう」とは思いませんから、CMを見た後、雑誌やWebサイトでもう少し詳しい情報を知っていただき、Webからカタログを請求いただき、いよいよショールームへ……と、“バケツリレー”のように少しずつ進めていく、そうしたコミュニケーション設計が不可欠です。また、お客さまだけでなく、その購買決定に影響を与える業者にも響くコミュニケーションを行う必要がある点でも、難しさを感じています。
北川:当社のビジネスはBtoBtoCとも捉えられますから、TOTOさんと同様、テレビCMは商品納入の促進や販売支援といった意味も非常に大きいです。まずは、商品が多く店頭に置かれること。そして店頭で売ってくださる方のモチベーションを高めること。もちろん、消費者の方々が反応してくださることが大前提ですが。