「お客様にとっての価値」を追求する、マーケティング視点のイノベーションとは?

組織や専門性を超えた融合がイノベーションを起こす

—お二人は「イノベーション」という言葉をどのように定義されていますか。

帝人 専務執行役員 新事業推進本部長 兼 マーケティング最高責任者 荒尾健太郎氏

荒尾:新事業、つまり既存の事業部が扱っていない“狭間”の部分を担うようになって最初に感じたのは、「技術者はマーケティング視点を持っていない」ということ。我々の事業はB to Bですが、その先にいるC=消費者が何を待っているのかということを考え、商品を開発する必要があります。したがって、単なる技術の革新ではなく、技術と市場の結合で爆発的に市場に普及したものが真のイノベーションであり、まさに市場にマッチしたものを創出することが求められています。今、素材メーカーは、ビジネスモデルの転換を迫られています。これまでは素材を供給することがビジネスになり、「良いものをつくれば売れる」という状況が長く続いていました。しかし、その素材がどんどんコモディティ化してきた。現在では、素材はソリューションの一部でしかありません。市場やお客さまの使用価値・真のニーズを理解した上で、素材を組み合わせ、技術を融合し、サービスを付加した新たなビジネスモデルを創出しなければいけない。そのためには、すべての事業が連携して顧客に向き合うことが必要であり、それが“One Teijin”の考え方です。事業や機能の間の融合を推進し、帝人グループとしての総合力を高め、特に技術開発力と市場対応力を強化することで、最適なソリューションを提供できる体制の構築を目指しています。

北川:イノベーションとは、一言で言うと「世のため、人のためになること」だと考えています。世の中の人をいかに快適にさせるか・幸せにさせるか――それがイノベーションのゴールです。コモディティ化を脱却し、イノベーションを実現するためには、二つの掛け算が必要です。一つは、「ブランドエクイティ強化×技術イノベーション×表現イノベーション」。特定保健用食品(トクホ)の緑茶飲料「伊右衛門 特茶」を例にとると、「伊右衛門というブランドの世界観を磨く」×「ケルセチン配糖体という体脂肪を減らす成分を開発する」×「イメージキャラクターの衣装を着物から洋服に変えるなど、デザインを刷新する」という掛け算を行いました。もう一つは、「人」の掛け算です。バックグラウンドがさまざまに異なる6~7人のチームで社内会議を実施しています。そして突拍子のない意見も決して否定しない・馬鹿にしないで、皆でアイデアを山ほど出す。質より量です。最大のポイントは、いいなと思ったらすぐにやる、すぐに見に行く・会いに行く。結局、すぐに動いた人が、イノベーションを起こすのだと、これまでの経験で分かりました。

—イノベーションを起こすために、両社とも人材育成に力を入れてこられたと伺いました。

北川:商品開発はとても大事ですが、それ以上に、商品を好きになってくださる顧客の開発が大事。さらに、それを実行するための社内人財の開発が、イノベーションにおいては重要なカギとなります。特に人財を育てる環境と風土は、非常に大切にしています。例えば、消費者視点を実践するグローバル企業を視察する「森羅万象ツアー」や、商品を買ってくださる方の家庭訪問調査・労働現場調査を行う「現場体感プログラム」を実施しているほか、会話やアイデアが生まれやすいようにオフィス環境も一新。市場調査やマス広告の無駄を極限まで減らすことで、人財を育てるための費用を捻出しました。

荒尾:人材育成では、営業力強化のための自事業に限らない全事業の素材教育、そしてマーケティング教育に注力しており、現段階で営業担当はほぼ終了し、技術担当へも拡大しています。マーケティング部門は、事業の狭間を埋める役割、事業間の融合をアシストする役割、優良顧客を事業に照会する役割といった下支えを担う部門です。ですから上から目線ではいけません。事業を下から支え、そこから成果が出れば、また何か困ったときにマーケティングに相談が来るようになる。そうして社内を巻き込みながら、社員全員がマーケティング志向を持って行動できるようになれば、と考えています。

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