プライドを持てば、続ける覚悟ができる
渡辺:最近は、いろんな業界をどんどん移ろっていく人も多いですよね。日本は技術と知識を受け継ぐことで成り立っていたはずなのに、上澄みだけをさらって、あっという間に次の道へ進む人が増えている。つまり、技のノウハウが継承されないような気がしていて。ちょっと大きな話ですが(笑)、それはこの国全体が抱える問題だとも思ってしまうんです。
青柳:そこはまさに、プライドの問題ですよね。自分に対してのプライドや、自分のやっていることに対してプライドがあるからこそ、続ける覚悟ができると思うんですよ。それがない人はブレてしまって、別の業界に心が動いてしまう。軸が変わらなければ、勤め先が変わってもいいと思うんです。でも職種すら変えてしまうのは、プライドも続けていく覚悟もないように思えてしまいます。
最近の若い世代で多いのは、安易に「はい」って答える人。「大丈夫か?」って聞くと、大半の子は「はい、大丈夫です」と答えます。でも、大丈夫じゃないことのほうが多いですよね。だから、失敗もする。失敗に対して問われると、「そこまで考えてませんでした」と答える。じゃあ、どこまで考えてたんだ!ってなりますよね。
渡辺:なんとなくわかります。
青柳:「はい」「大丈夫です」「そこまで考えてませんでした」の3つは、本当に使う人が多いです。それは覚悟ができていないことの表れではないか、とも思うのです。覚悟が決まっていて、続けることに対してしっかり腹に落ちていたら、こういう言い方はしない。反射的に「はい」とやり過ごしたり、「大丈夫です」と答えるのは、その場から逃げる安易な方法なんですよね。どうして「大丈夫です」って答えたかを問うと「言葉が思い浮かびませんでした」って言うんです。でも、それも逃げなんですよね(笑)。成長できる人は、自分の言葉で自分の意見が口に出せる人。安易な逃げ道を選ばないためにも、覚悟が必要です。
渡辺:僕自身も、ドキッとするところがあります…。
青柳:それぐらいの覚悟がないと、結婚式のお手伝いはできないんです。結婚式は一回きり、「今度」も「次回」もないですから。
よくスタッフに話すのですが、一日に何百、何千の人に感動していただいたり、喜んでいただいたくことは今でもやってきたし、これからも簡単にできる。でも、もう一つ簡単にできることは、一日に何万の人を悲しませること。だから、しっかり覚悟を決めろ、と。
渡辺:僕たちの仕事との一番の違いは、そこかもしれません。広告の仕事には、一発勝負に対する覚悟が足りない。「次、頑張ろう」とか、「今回はしょうがないよね」と言って、なんとなく誤魔化してる。今回うまくいかなかったから、次はやり方を変えてこうやってみようと言いながら、一番大事にしなきゃいけない部分から、安易に逃げている部分があるのかもしれません。
穏やかな表情で、ゆっくりと、丁寧にお話になる青柳さん。しかし、その言葉の裏にはプロとしての強烈な自覚と意志を感じました。
「逃げないこと」。青柳さんは、その言葉を何度も口にされていました。自分が選んだ道を、覚悟を決めて進み続ける。簡単なようだけど、実はそれって本当に難しい。青柳さんが、ご自分の経験から語られる言葉の一つひとつが、ズシンと胸に響きました。
お邪魔したのは、水曜日の朝。厨房では、週末の披露宴に向け、若いスタッフの方々が黙々と料理の下ごしらえをしていました。どんな仕事にも、近道なんてない。そんな当たり前のことに改めて気づかされました。ストイックなフリをしていたけれど、だいぶ楽をして生きてきたかもしれない…。自分に足りないものが、抜けるような青空の下に晒され、悔しいような、恥ずかしいような気持ちになりつつも、みなとみらいに来たからにはと、行きたかった蕎麦屋への道順を検索してしまう自分が、情けなくも愛おしく思う一日でした。
《非進化論的メモ》
- 激しい修行の時間が、プロとしての確かな技術をつくる
- 自分の強さを見出すために、ユーティリティーな能力を磨く
- NOと言える勇気が、お客さまとの関係をつくる
- 自分にプライドがあるからこそ、続ける覚悟ができる
- 大切なのは、「逃げないこと」
次回の仕事人は、アイドル・私立恵比寿中学です。お楽しみに!