宇宙に行くと重力がなくなるので、“拠りどころ”や“落ち着き”がなくなる?(ゲスト:野口聡一さん)【前編】

宇宙に行くと“拠りどころ”や“落ち着き”がなくなる

野口:そうですね。特に2回目の宇宙のときに思っていたんですけど、先ほどの権八さんの「怖くないですか?」という話がありましたが、結局、自分の拠りどころにするものは何なのかということだと思います。地球上で、地面にいるときは重力がありますよね。今も座ってますけど、お尻越しに感じるもの。あるいは立っていれば、足の裏から感じる何かに触れている感覚。要は、落ち着く、安定している、というのが何かの面の上を、あるいは重力の方向を拠りどころにして、自分は安定していると思えるわけじゃないですか。自分は落ち着いていると。

宇宙に行くとそれがなくなるわけです。重力を感じないし、だいたい浮いているので。ここに座っていれば落ち着くというものがないときに、自分はどうすれば安定していると思えるのか。定位していると思えるのか、というところが人によって違うんです。人によっては宗教がそれに当たります。アメリカ人は信仰を持つ人が多いので、自分が拠りどころにするものがなくなったときに聖書に行くと。自分が誰の話を聞いたらいいかわからないときに、神の声を探すということにたぶんなると思います。

私はそんなに宗教的な人間ではないので、例えば出張先などで夜起きて、「あれ、ここどこだっけ?」みたいなことがあるじゃないですか。そういうときに落ち着こうとして神の声を探そうとは思わないですよね。スマホを開いて、「そうか、今日はここに泊まってるんだ」と。自分の落ち着きを取り戻すためにとる行動が人によっては神であり、人によっては家族の声であり。失われた定位感をどうやって取り戻すかという過程がたぶん宇宙に適応していくということなんじゃないですかね。

澤本:本当に定位感が全くないという。

野口:はい、一度失われると。実は、重力が落ち着くという感覚にも影響しているんだと思います。それがないことで、まさに赤ちゃんが最初に産湯につかるときにバシャバシャと落ち着かなくて動くような。そういう感じで宇宙に放り出された人類は、まずは落ち着くという感覚を何とかして取り戻そうとして、いろいろなことをするんだと思います。

権八:野口さんの場合は何ですか? 自分の定位感を取り戻す方法は?

野口:1つは、触れてないですけど地球ですね。これは明確にあって、地球がどこにあるかという感覚を恐らく常に追っていると思います。ですから、先ほどの宇宙遊泳のときにも落ち着くのは地球が見えるからなんです。何百キロも離れているし、足元には何もないんだけど、地球がここにあるという感覚があれば、ある意味、落ち着いていられると。そういう意味では、遠くの宇宙に行ったときにどうなるか。

まだ人類はせいぜい月までしか行っていなくて、月に行ってもここから月を見るぐらいの感覚で地球が見えているので、地球をベースにした定位感というか、拠りどころ感はきっと残ると思います。でも、地球が見えないぐらいまで離れたときに、地球人、地球型生命体はどうやって定位感、落ち着きをつくっていくんだろうなというのは興味がありますね。

澤本:地球型生命体と言われると、僕らは地球型生命体なんだなと。

野口:そう、同じ種族に属してるんですよ。

権八:地球型生命体以外の生命体はやっぱりいるんでしょうかね?

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