機能よりも生活と一体化した視点での製品開発が必要
研究会の後半は、こちらも恒例となっている他参加企業への提案を行った。ここでの議論から、コラボレーションのアイデアが生まれることもあった。今回の参加企業は、それぞれの参加者がユーザーとしても身近なものであったことから提案も具体的で、気づきの多いものとなったようだ。
叶田氏は、冷蔵庫内のデータに外出先からでもアクセスできる冷蔵庫があればという提案があった。冷やす、保存するという機能だけではなく「より生活と一体化し、暮らしを充実させるイノベーションが欲しい」と話した。成田氏はそうした製品の開発が進んでいると話し、IoT家電が進化したときに「デバイスはできても、その背景となるプラットフォームに参加する企業が増えないと広がらない」という課題も口にした。
ここで加藤氏もIoT家電におけるアクアの戦略に対する質問があった。成田氏は、家電とIoTを無理やり結びつけると、特に順番を間違えて、プロダクトアウトに逆戻りしてしまうことがあると指摘。消費者が求めているのは、単にスマートフォンで操作できる洗濯機ではなく、洗って、乾かしてくれる洗濯機であり、本来家電がすべきことは何か、という軸でIoTの活用方法を考えるのが大事だと見解を示した。また、AppleのApp StoreやiTunesを例に、ネットワークとつながることは手段でしかなく、その先に消費者がどんな便利を得られるかというプラットフォーム作りが重要で「IT産業でも家電メーカーでも、どこがそのプラットフォームを開発するか」だと話した。
プラットフォームの開発競争に関しても、家電がネットワークにつながることでプライバシーの問題が起きる。成田氏は「プラットフォームは変化していくものなので、導入初期段階では日本人の気持ちを汲んだ“ここまでなら許せる”という情報の使い方ができれば良いのでは」と指摘した。IoT家電についても心地よい匿名性や距離感はキーワードになりそうだ。
アトラクションに「体験」を加えることで独特な世界をつくる
店舗スタッフの一部をオリエンタルランドの研修に参加させているという叶田氏。そうした経験もふまえ、東京ディズニーリゾートのキャストのモチベーションを来園者に体験する機会があれば、特別な世界を作ることができるのではと話した。その体験を通じて、訪日観光客にも日本的なおもてなしの心を感じてもらえるとインバウンド消費でも強みになる。
加藤氏からもCLUBのメンバーであるキッザニアの例を紹介し、キッザニアが単に体験だけではなく、その体験で収入を得て、施設内で使うことができる「経済圏」を形成していることを指摘。体験だけではすでにコモディティ化が起きているなかで、オリエンタルランドにも体験を経済圏にまで広げることでリピーターを生むことができるのではとの提案があった。
東京ディズニーリゾートではすでに、子ども向けにパークの清掃体験のプログラムを実施しているが、一般来園者にも体験を用意することでロイヤリティ向上につながり「キャスト体験が将来のキャスト育成につながると良いかもしれない」と反応した。
消費者の行動、ニーズを探るための技術の生かし方
コンビニエンスストアにとって、来店者の情報は消費者ニーズの分析において非常に重要となる。現状はレジを通った人のデータしかなく、来店したものの、買い物しない人がなぜ来店し、どんな理由で買い物をしなかったのかを知ることはできない。叶田氏は「例えば1200人来店して、買った1000人はわかるけど、200人のことがわからないのは歯がゆい」と話した。
そこで、富士フイルムの顔認証技術を生かした来店者の情報取得ができればという提案につながった。これには家電メーカーとして消費者のニーズを知りたいと考えている成田氏も賛同した。現状、独自に調査会社へ依頼しているという。顧客のデータを欲しがる企業は多く、そうした企業を募って店頭にカメラを設置し、購買行動データを取得するような動きも有効かもしれないと話した。
松本氏は、すでに医療系で薬剤の投薬ミスを防ぐために、画像データ取得と分析は行っていると話し、こうした技術開発の研究所も設置しているという。映像データからの情報分析のニーズの高さはあると話し、同分野での今後の可能性を感じさせた。
消費者視点の重要性を再確認できるCMO CLUBの研究会
笠原氏に向けては、松本氏から「東京ディズニーランドが開園した当時の若者は今50代、そうした層へ向けた同窓会パッケージがあれば」という提案や、還暦などのお祝いをからめた集客案も出された。成田氏からも富裕層のとりこみを狙った、航空機のクラス分けをイメージしたプレミアムサービスがあってもいいのではという話も出た。笠原氏は、富裕層の取り込みは課題としつつ「全ての来園者をVIPとして扱っているので、それを両立できれば可能性はある」と話した。
研究会を通じて、成田氏は「こうして異業種の人と会う機会は楽しみ。今後もこのつながりを通じて勉強させてもらいたい」と感想を述べた。松本氏も「バラバラの業種業態のマーケターと話をすることで、自社内では見えないことに気づけた」と話した。叶田氏は昔から消費者として触れていたブランドと同席し、マーケターとしてだけではなく、ひとりの消費者としても話したことで「改めて消費者視点の大事さを感じたし、異業種、異業態との交流は刺激になった。今後も情報交換を続けてお互いに良い影響を受けられれば」と口にした。
最後に加藤氏は、笑顔で感想を話す参加者を見て「議論を通じてマーケターの皆さんの体温をあげるために研究会を開催し、私はこれをライフワークだと思っている。皆さんの笑顔は体温が上がっていることの表れだと思う」と話し、もうひとつのCLUBの目的であるマーケターの交流をより活性化し、体温が上がったマーケターたちの力で「日本全体の体温を上げていきたい」として第12回目のJAPAN CMO CLUB研究会を締めくくった。
JAPAN CMO CLUB
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