【前回コラム】「宇宙に行くと重力がなくなるので、“拠りどころ”や“落ち着き”がなくなる?(ゲスト:野口聡一さん)【前編】」はこちら
今回の登場人物紹介
※本記事は4月9日放送分の内容をダイジェスト収録したものです。
宇宙飛行士から見てリアルだと思う映画は?
権八:SF映画や宇宙を描いた映画がいろいろありますが、宇宙飛行士の目で「これは宇宙のリアルに近い」と感じられるものはありますか? 昨今だと『ゼロ・グラビティ』、古くは『2001年宇宙の旅』、『スター・ウォーズ』など、ありますけど。
野口:僕自身も子どもの頃から宇宙モノのSFが大好きだったので、いっぱい見てきました。影響を受けたのは83年公開の『ライトスタッフ』という映画。あれは非常に強烈な印象がありますね。高校生の頃に見て、冒頭のシーンでテストパイロットが死んでしまうところからはじまって、7名の宇宙飛行士が国家政策として宇宙を目指す集団に選ばれて、それぞれが自問自答しながら宇宙を目指していくという。
青臭いストーリーですが、アメリカが最初に宇宙を目指したときの躍動感。もう1つは冷戦。ソ連との対抗の末に起こった宇宙開発だったことがよくわかる話で印象に残ってますね。もう1つは宇宙の悲劇ではないんですけど、事故を扱った『アポロ13』。これも1990年の終わりか2000年のはじめですかね。私は宇宙飛行士になっていて、新人で宇宙飛行士訓練をやっている頃にNASAで撮影をしていたので、まさに俳優のトム・ハンクスさんなどが一生懸命演じたりするのを見ていました。
その頃はNASAで映画の撮影を許可していたんです。『アルマゲドン』なども撮ってましたね。『アポロ13』はリアルな展開だと思います。ドキュメンタリーに近い感じですね。その2つが強烈に残っています。かたや『スター・ウォーズ』なども好きなので、リアルかどうかは別として、宇宙に飛んでいく躍動感みたいなものは、私だけではなく多くの宇宙飛行士にモチベーションを与えていると思います。
澤本:野口さんは宇宙飛行士グループ長という立場だったり、宇宙探検家協会という初耳の協会にも。まず、グループ長というのはどういうことをされているんですか?
野口:基本的には日本人の現役宇宙飛行士が何名かいますが、新人も含めて6、7名ぐらいの所帯で、そのグループを取りまとめて、宇宙に行った人にはその後の技術的なフィードバックをしてもらうと。新人の宇宙飛行士には早く宇宙に行ってもらうと。あとは訓練の企画やミッションの内容に関しての助言などをやっています。
澤本:宇宙飛行士にはどういう人が向いてますか?
野口:1つは宇宙に行くまでには時間がかかるので、長い時間モチベーションを、宇宙に行きたいという気持ちを保てることが大事だと思います。あとは、いろいろな国の人達と一緒にやっていくので、そういう意味での国際感覚。じつは私のもう1つのポジション、宇宙探検家協会というちょっと変わった名目がそこにつながってきます。もともとアメリカ人やロシア人の宇宙飛行士OBの団体はあったんですが、せっかく宇宙という場で、地球や宇宙を舞台にやっているのだから、世界中の宇宙飛行士が一緒に集まれる親睦団体、業界団体をつくろうじゃないか、というので今から30年前にはじまった団体なんです。はじめた人は偉いなと思います。
30年前にアメリカ人、ロシア人、ヨーロッパ人がフランスで集まって会議をはじめたのが世界宇宙飛行士会議の第1回です。それをベースに宇宙探検家協会をつくって、長らくアメリカ人とロシア人が中心でやっていましたが、ここ10年ぐらいはアジア勢、日本と中国が伸びているので、アメリカ人とロシア人の重鎮たちがここらで新興国に任せようかと考えて、今は私が世界宇宙飛行士会議の議長で、年1回の総会を取りまとめています。
今年はウィーンで、去年はストックホルムでやりました。そこで世界中の宇宙飛行士が集まってきて、今、宇宙で何が起こってるのか、これからの新しい宇宙船はどうあるべきか、あるいは子どもたちへの宇宙教育を地球全体でいろいろな国と一緒にやっていくにはどうすればいいかということを1週間にわたって話をすると。
澤本:すごい。出席者全員が宇宙に行ったことのある人なんですね。
権八:何人ぐらいいるんですか?
野口:会員自体は400人ですが、全員来てしまうと話の収集がつかないので、100人限定です。毎年熾烈な戦いなんですよ。アメリカ人は今年30名で決めてくださいと、そこでプリセレクションをやって。幸い日本はまだ数が少ないのですが、それでも毎年日本人の中から3名ぐらいを選んで送り込むと。面白い話が毎年ありますね。宇宙飛行士の歴史は半世紀あって、50年前に最初に船外活動をやったロシア人などが来るわけですよ。
あと、アポロ計画で月に行った人。去年もバズ・オルドリンさんというアポロ11号で月面に降りた方が実際に来てくれて。そういう意味では時代を超えて、対等に、宇宙飛行士という肩書ではなく、宇宙へ行ったという経験だけを共通項にして対等に話せるというところが良い会議だと思います。