宇宙飛行士から見て「これはリアルだ」と感じる宇宙映画は?(ゲスト:野口聡一さん)【後編】

もしも、巨大隕石が地球にぶつかりそうになったらどうする?

権八:例えば、隕石や小惑星がぶつかるのを回避するためのことをやられていて。

野口:おっしゃる通りですね。それは宇宙飛行士の中でも精力的にやっている方がいます。映画もありましたよね。『ゼロ・グラビティ』も少しそういうところがありますが、地球に巨大隕石がきたときにどうやって守るのかと。『アルマゲドン』は命知らずの宇宙飛行士たちが悪戦苦闘する話ですけど、今の技術を使って、より早く見つければああいう死にもの狂いのことをしなくてもいいかもしれない。

例えば、やってくる隕石に接近して、そのコースをちょっと変えるだけでいい。要は地球に当たらなければいいわけなので。そういうことを国連と一緒になってやっている飛行士OBの方がいて。そういう意味では、日本の「はやぶさ」は大事な技術をもっていて、宇宙の彼方から来る小惑星や隕石に近づいて、そこに着陸すると。そういった技術は世界の中でもなかなかないので、日本の「はやぶさ」は先進的な例です。

ヨーロッパも一昨年、彗星に着陸するミッションをやりましたが、そういう意味で、少しずつ火星や見えている場所に降りる技術以外に、飛んでくるもの、場所がハッキリしないもの、小さいものに宇宙空間で近づいていき、そこに足を付ける。場合によってはそこからちょっとコースを変えるためにエンジンを噴かしてあげるという技術は注目されています。

澤本:着陸してエンジンを噴かして隕石や彗星の軌跡を変えることは可能ですか?

野口:そういう研究をしている方がたくさんいて、原理的には十分可能だと思います。というのは、地球に到達するまでの時間が長ければ、弱いエンジンでも長い時間作動させることで、「はやぶさ」もそうですが、1円玉が上がるかどうか程度の小さい力でも何千秒と噴いていれば大きな力になるので。それで巨大な隕石でもちょっとコースを変えて、地球にぶつからずに宇宙の彼方に行ってくれれば、我々、地球型生命体は守られます。そういうことを一生懸命やっている方がいらっしゃいますね。

中村:もう1個、トピックでお聞きしたかったのがISS計画。世界15か国で進めているISS計画というものがありますが、ISS計画とはどのようなものでしょうか?

野口:マンガ『宇宙兄弟』を見ている方は話題に出てくるのでご存知かもしれませんが、1998年から打ち上げ、組み立てがはじまって、14年ぐらいかけて完成した、実際に宇宙空間を飛んでいる国際宇宙ステーションISSというものがあります。やりたいことは宇宙空間に大きな実験設備をつくろうと。アメリカ、ロシア、ヨーロッパ、日本、そしてカナダ。5つの世界パートナーが協力して、いろいろな実験ができる施設を動かしています。

エネルギーは全部、太陽エネルギーです。太陽電池がバーッと広がっていて、小学校の校庭ぐらいの大きさの巨大な太陽電池が広がっているんですけど、そこに屋台骨みたいな感じで、大型バスぐらいのサイズの宇宙船をいくつか繋げて、そこで宇宙飛行士が今も6名暮らしています。私も含めて日本人で長期宇宙滞在をした人は、全員、この国際宇宙ステーションで暮らしています。

そこに実験棟「きぼう」という日本がつくった実験モジュールがあります。日本の先生、あるいは外国の先生からの提案も含めて、いろいろな科学実験や宇宙実験をできるようになっています。去年、宇宙に行って話題になった油井亀美也さんが宇宙ステーションでいろいろな実験をやってくれました。その成果を地上の大学の先生などに戻して、今後はもしかしたら新しい薬ができるかもしれません。

あるいは、宇宙に行くと体が弱くなります。骨が脆くなる、筋肉が弱くなるんですけど、そういったものを遅らせるような仕組みができれば、今度は地球上の高齢者の骨が弱くなることにも対抗できるかもしれません。そういったような形で、宇宙経験を地上の問題にいかに生かしていくかというのが大きなテーマになっていますね。

権八:抗菌ものや消臭繊維など、そういうものは宇宙での実験が元になっているという。

野口:そうですね。最終的に、なぜ宇宙に行くのかという話にも繋がりますけど、僕自身は地球型生命体ヒトがどこまで行けるのかと。距離もあるし、時間もある。より遠くに、より長く。あとは環境。空気が薄い、温度が高い、低い、あるいは放射線の話も含めて、地球で守られている環境から厳しい環境にどんどん行くと思っていて、距離と時間と環境を超えて人類は発展・進化していくだろうと。

その1つの課題としては、今の時点では住環境をいかに地球にいるかのように保っていけるかというのが大きな課題になると思います。一番大事なのは空気の蘇生ですね。ちゃんと必要な酸素をつくりだすことと、温度と気圧。それと同じぐらい宇宙食や宇宙で着る服。船外活動をする宇宙服ではなくて、中で普段着る服も大事で、細菌が繁殖してしまうと体調を崩してしまうことや、そのせいで宇宙にいられなくなってしまうことも考えられる。

そういった意味で、抗菌、消臭、あるいは栄養がしっかり取れる宇宙食といった衣食住に関する課題というのはまさに普通の人類が、普通の方が宇宙に行く時代になってくると大事なテーマになると思います。

次ページ 「宇宙へ行くと、身体はどう変わるのか?」へ続く

前のページ 次のページ
1 2 3
すぐおわアドタイ出張所
すぐおわアドタイ出張所
すぐおわアドタイ出張所
この記事の感想を
教えて下さい。
この記事の感想を教えて下さい。

このコラムを読んだ方におススメのコラム

    タイアップ