クチコミで基盤をつくり、広告でブースト
藤崎:マス広告は、どのタイミングで投入したんでしょうか。
徳丸:先ほど、お話したように市場開拓のために最初に行ったのは、消費者のクチコミ活用でした。次にコンテンツマーケティングを行うことで、多様なクチコミが発生しました。その結果、ルンバに対するポジティブなクチコミが増加しましたが、それは我々が考えるコミュニケーション上のいわば土台でした。クチコミが顕在化した2009年からマス広告を始めました。この広告展開によって、一気に認知度が高まり、消費者数も劇的に増えました。
ただし、マス広告で製品の認知度は高まりましたが、一方で一人ひとりの製品理解度という点では課題も残りました。ルンバのある暮らしを想像し、自分ゴト化してもらうために、今まで以上に消費者の声を大切にしていこうと決めました。そこで「アイロボット ファンプログラム」を行うことにしたという流れになります。
藤崎:新市場の開拓や市場拡大を狙う要所要所で、ファンやクチコミの力に着目しているわけですね。
徳丸:広告は認知度を高めるのに適していて、クチコミは「納得感」の土台になります。2009年からいろいろな広告を行い、認知レベルは拡大したので、次はクチコミが永続的に行われていくための「クチコミの仕組化」作りに注力していこうと思っています。
藤崎:広告とクチコミの役割は、それぞれ違います。もちろん全てを行うことができればベストですが、役割を分担させ、ステップを踏んで市場を大きくしていく戦略ですね。
徳丸:結局のところ、ロボット掃除機は今でも新カテゴリーの商品です。どんなメリットがあるのかまだイメージしにくい商品なので、市場拡大に向けては、最終的には利用者の声やクチコミが消費者の不安を払拭するのにもっとも役立つものになります。
藤崎:「ルンバ」のような新ジャンルの商品は、常にクチコミが大事なんですね。
クチコミが市場を広げてくれる
徳丸:広告展開に関しては、弊社は販売代理店ですので、米国アイロボット社と歩調を合わせてグローバルブランディングに取り組んでいます。ただ、それだけでは足りないと思っています。日本市場に根付かせることを考えると、消費者の声をどう生み出して広げていくのかをセットにして考えないと、実際の普及にはつながりません。広告とクチコミは両輪です。
藤崎:日本市場では、特にクチコミが機能するということでしょうか?
徳丸:クチコミが持つパワーは、日本もアメリカも同じです。ですので、広告とクチコミの両方を上手に使っていこうというのが我々のスタンスです。
日本の状況をお話すると、「ルンバ」は使ってくださっている方には非常に満足頂いている商品です。いつ調査をおこなっても、約8割の人が「満足です」と回答する調査結果が出ています。一方で、使っていない方はすごく懐疑的に見てしまう傾向があります。「いろいろな記事では良いと書いてあるし、消費者レビューでも好意的に書かれているが、本当に大丈夫なのか?」ということが一般的な反応で、その懐疑心をどう解くのか継続した課題です。
藤崎:1回でも使ってもらえると、良さがわかるということですね。
徳丸:そうですね、ただ試しに使ってもらえるプログラムを全員に提供するのは難しいので、体験談やレビューなどで疑似体験してもらいたいと思っています。そこでは、さまざまなライフスタイルや価値観をもった消費者の声を紹介することが必要だと考えています。
藤崎:「ルンバ」におけるクチコミの重要性がさらによくわかりました。一般的な企業の場合、まだまだ従来型のマーケティングが主流ですので、ファン重視のアンバサダープログラムは社内を説得する必要があるようです。つまり、せっかく担当者の方が前向きでも、既存顧客とのマーケティングに果たして意味があるのか、という社内の声で頓挫する企業が多いのも事実です。
徳丸:弊社の場合は、そういう問題はなかったですね。そもそも市場開拓の時点で、クチコミの重要性を私自身が認識していました。