新市場は、消費者とメーカーの「二人三脚」がなければ生まれない(ロボット掃除機ルンバ)

「アイロボット ファンプログラム」の3つの軸

藤崎:「アイロボット ファンプログラム」の具体的な内容を教えてください。

徳丸:大きく分けて、3つの施策を軸に運営しています。1つ目はSNSでの投稿キャンペーンです。こちらは常時行なっています。2つ目は製品モニターです。こちらは3か月間と、ちょっと長めの期間設定が特徴です。3つ目は参加できるようなアクティビティという意味でファンイベントです。

最初の2つはデジタル上での展開ですが、3つ目はリアルを重視したものです。その3つを組み合わせて、消費者の疑問に答えるコンテンツを増やしています。

藤崎:それぞれについて詳しく教えてください。まずは、1つ目のSNS投稿キャンペーンの反応はいかがだったでしょうか。

徳丸:投稿のお題はとてもシンプルで「ルンバの一番の魅力はなんですか?」です。これは実際にお使い頂いている方にとっては、実感を込めて投稿しやすい内容ですし、ルンバを欲しいと思っている方も知りたい内容です。ですので、両者にとってそれぞれの満足を満たす情報発信ができていると思っています。もちろん我々から見ても、購入を検討している方に届いて欲しい声ばかりですので、有意義な企画といえます。

藤崎:なるほど。使っている人にとっては、自分たちの体験を人に伝えたいという気持ちがあるでしょうし、その率直な声が購入検討者の参考になるというわけですね。では2つ目のモニター企画について教えてください。この3か月というモニター期間はずいぶん長いですね。

徳丸:期間を長くしたのは、モニターの方と同じ長期間に渡る心境や暮らしの変化を、他の人にも追体験して欲しいからです。

藤崎:どういうことでしょうか?

徳丸:「ルンバ」が届いて、初めて使った時が嬉しいというのはよくわかります。最初の1回目が興味深いのは誰もが同じです。その喜びや驚きが、どのように日常的になっていくのか、それをモニターの人に体験して欲しいということです。

モニターは、最初は興味本位だったり、懐疑的だったりしますが、だんだんポジティブに変化していき、日常的に使っていくうちに「ルンバ」が「生活の必需品」になっていきます。そうした心境や暮らしの変化を実際に体験してもらうために3か月間にしました。

実際に3か月間、日常的に使っていくうちに、どんどん手放せなくなっていく感じが、モニターの記事に出てきます。これは本当に実感が込められていて、企業からのメッセージでは伝えられない内容です。そして、3か月後には結局、購入いただくケースもたくさんあります。

藤崎:一般的に製品モニターは、そこまでの心境の変化を追うことはありません。でも「掃除機」という生活必需品を違うものに置き換えてもらうためには、そのくらいの期間が必要だということなんでしょうか。

徳丸:「掃除機」としての性能はもちろんですが、実はそれだけではありません。実際に「ルンバ」が家にあると暮らしが少し変わっていきます。その変化を体験してもらいたいということです。具体的には、やらなければならない掃除という家事がひとつ減るということは、その分の心理的・体力的な負担からも解放され、自分の時間が充実し、日常の質が上がっていきます。その体験のために、3か月くらい使ってもらいたいということです。

藤崎:それは素晴らしいですね。「ルンバ」がある暮らしについてはいろいろな声を聞きます。例えば、小さいお子さんがいるご家庭では、ルンバが動く時間を掃除の時間と位置付けて、子供に定期的に片づけをさせているという話などです。「床に散らばったおもちゃを片付けないとルンバが食べちゃうよ」と言っているそうで、ルンバが来てから子供が定期的に片付けるようになったそうです。

徳丸:そういう話はよく聞きます。他にもルンバがあることで暮らしが良い方向へ変わっていくこともあるようです。ですので、モニターの返却期限が迫ってくると、多くの方はできれば返したくないという気持ちになります。そして「ルンバ」がいかに生活に必要なものなのか記事に書いてくださいます。

藤崎:なるほど。「ルンバ」には、単なる掃除機としての機能以上の価値があるということですね。だから実際に使ってみることが大事なんですね。

徳丸:それは、「ルンバ」がそもそも持っている開発姿勢が関係しています。

藤崎:どういうことでしょうか。

徳丸:施策の3つ目のファンイベントでは、「ルンバ」の開発会社である米国アイロボット社の生い立ちや企業理念についてお伝えしています。

藤崎:興味深いですね。

次ページ 「ファンイベントでは開発理念を理解してもらう」へ続く

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藤崎実(東京工科大学メディア学部専任講師/アジャイルメディア・ネットワーク エバンジェリスト)
藤崎実(東京工科大学メディア学部専任講師/アジャイルメディア・ネットワーク エバンジェリスト)

博報堂 宗形チーム、大広インテレクト、読売広告社、TBWA HAKUHODO、アジャイルメディア・ネットワークを経て、現職。
変わりゆく広告の最前線を歩み、ファンやアンバサダーに着目した企業のマーケティング活動に従事し、研究職に。
日本広告学会:クリエーティブ委員、産業界評議員、デジタルシフト準備委員会。日本広報学会会員。WOMマーケティング協議会:副理事長、事例共有委員会。東京コピーライターズクラブ会員。カンヌ・クリエイターオブザイヤー他受賞多数。多摩美術大学、日大商学部非常勤講師。

藤崎実(東京工科大学メディア学部専任講師/アジャイルメディア・ネットワーク エバンジェリスト)

博報堂 宗形チーム、大広インテレクト、読売広告社、TBWA HAKUHODO、アジャイルメディア・ネットワークを経て、現職。
変わりゆく広告の最前線を歩み、ファンやアンバサダーに着目した企業のマーケティング活動に従事し、研究職に。
日本広告学会:クリエーティブ委員、産業界評議員、デジタルシフト準備委員会。日本広報学会会員。WOMマーケティング協議会:副理事長、事例共有委員会。東京コピーライターズクラブ会員。カンヌ・クリエイターオブザイヤー他受賞多数。多摩美術大学、日大商学部非常勤講師。

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