組織の壁を超えた挑戦 PRとマーケティングの融合―デル×富士重工業

SNSが広げる広報の可能性

編集部:ブランドのファンを巻き込んだマーケティングはここ数年、企業の課題になってきているように思います。こうしたイベントはファンの方がソーシャルメディアで拡散してくれて話題になるという効果もありますね。

関口:当社もPC購入後のユーザーサポートは重視していて、サポート部隊は独自のソーシャルメディアアカウントを持ち、チャットでダイレクトにお客さまとコミュニケーションをとっています。おそらく今後の広報やマーケティングの課題は、いかに企業がダイレクトに消費者とコミュニケーションをとっていくかということになると思うので、力を入れています。

岡田:ソーシャルメディアの影響は大きいですよね。宣伝と広報の境界がなくなってきたのは、ソーシャルメディアが出てきたからではないかと思っています。どちらも直接お客さまにメッセージを届けられるようになり、いい意味で境界が曖昧になってきていますよね。

企業は宣伝と広報を分けて考えますが、お客さまから見ればスバルはひとつの企業体。企業としていかにコミュニケーションをとっていくか、会社全体で考えなければいけない時期にきているのかもしれません。

編集部:数値にならない部分も重要である一方で、数字にこだわることも大事だと思います。

関口 良幸 氏
デル 広報本部 北アジア地域統括本部長

関口:ソーシャルメディアの広がりはリード(見込み客)を取るための予算がない広報にはすごくプラスになっていて、広報活動の幅は格段に広がりました。

だからこそ、デルの場合はこれからますます定量化が重要になると思っています。定量分析に基づく数値をもって、予算の壁を壊しにいかなければいけない。2015年には広報活動の評価基準をつくり直し、活動の80%以上を定量化しました。メディアリレーションズの方法も見直し、デルとしてリーチしたい読者を抱える媒体を改めて洗い出しました。

今はオンラインメディアの記事掲載による効果の定量数化にも取り組んでいて、掲載された記事のPV数を有料でもいいので開示してもらえないかと各媒体社に依頼しています。そのデータをもとに広報の定量化分析モデルの完成を目指しています。

社内理解を深めるポイントとは

編集部:現場で課題だと感じていらっしゃることはありますか。

岡田:デジタルでお客さまとつながる仕組みづくりをしていますが、スバルネクストストーリー推進室は4人しかいません。イベントを開催する場合、ユーザーにボランティアとしてサポートをお願いしています。もちろん我々スタッフが増えるに越したことはありませんが、理想としてはスバルファンが自ら集い、全国各地で自然発生的にイベントが開かれるような仕組みを構築すること。主役はユーザーであり、私たちはサポート役に徹する、といったイメージを描いています。

2015年7月、平手智行社長の就任に伴い、広報体制を大きく改革。経営会議に関口氏も参加するようになった。普段から社長の発信するメッセージを理解し、有事の混乱時でもメッセージを統一することを狙う。

関口:広報の関連部門だけで実現できることはほとんどありませんよね。一番大変なことはステークホルダーマネジメント。社内の関係各所を巻き込んでいくわけですが、本当に孤軍奮闘でバサバサ斬られて、私の背中は傷だらけです(笑)。そんな状況にある広報パーソンの方は非常に多いのではないでしょうか。

編集部:おっしゃる通りだと思います。デルの平手社長は広報のご経験者なので広報の重要性を理解していらっしゃいます。一方、富士重工業にもマーケティング発想を持ったトップがいらっしゃいます。編集部には社内やトップに広報の重要性を理解してもらうことが非常に難しいという読者の声がたくさん寄せられますが、その点でアドバイスがあればお願いします。

岡田:トップをはじめ役員は、ほぼ全員がスバルのファンミーティングに参加しています。そこでお客さまの声をリアルに聞いてもらうことが、広報活動の重要性を理解させることにつながっているのかと思います。

また、広報部では社内向けにマンスリーレポートを発行しています。それを通して、スバルに対して世間がどういうイメージを持っているのか、お客さまからどういうふうに言われているか、役員と状況を共有しています。

関口:定点観測したことをレポーティングしていくことは重要ですよね。当社では第三者機関による企業イメージ調査を継続して実施しています。最も聞きたい「デルという会社にスコアが“ソリューション・プロバイダー”の事業イメージがあるか」という設問があるのですが、この2年でスコアが15ポイントと上がりました。調査で上がってきた声を社内にフィードバックしていろいろな施策に役立ててきたので、その結果が出ているのかなと思っています。

編集部:スバルでは企業イメージをつくっていく取り組みはありますか。

岡田:「安心と愉しさ」のうち、「安心」の方は、アイサイトという自動ブレーキの技術が有名になったのでポイントが上がっています。「愉しさ」の方はファンミーティングのほか、ウェブサイトに「アクティブライフスクエア」というコンテンツをつくり、イベントの告知やアクティブライフを楽しむための情報を発信。ユーザーからアイデアの募集も行っています。「スバルの車を買って良かった」と思ってもらうようにしようという取り組みです。

編集部:最後に、この新年度、注力したい取り組みなどはありますか。

関口:この3月から広報でペイドメディアの活用も始めました。デルにおける広報やマーケティングのゴールは、自社のモノ(製品)やコト(サービスやソリューション)をお客さまに販売していく仕組みをつくることだと思っています。成果の数値が出たから終わりではありません。我々はマーケティング施策も行いますし、定点観測も続けます。よって広報もマーケティングも垣根はありません。

すべては自社のモノ・コトを販売するため。その軸をしっかり意識していれば、いろんなイノベーションが起きるのではないかと思います。

岡田:自動車業界では、自動運転車や、IC端末としての機能を持ったコネクテッドカーなど、様々な話題があります。こうした新しい技術も絡めながら、スバルがより安心で愉しい価値を提供するにはどうすればいいか、考えていきたいと思います。

私自身も広報部を統括するようになり2年が経ちました。会社としても最近業績がよくなってきて感じたことは、お客さまや世間が見たときに、「いい会社だな」と思われるような会社にならなければいけないということです。広報の真意はそこにあると思います。

編集部:そこがコーポレートコミュニケーションの発信の肝になっていくのでしょうね。本日は貴重なお話をいただき、ありがとうございました。

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