人見知りのための、人脈構築のコツ
—聞くところによると、箭内さんは極度の人見知りとか。クリエイティブチームも“レギュラーメンバー”は固定しているとのことでしたね。一方で、ミュージシャンをはじめ、従来的な広告制作チームにはいなかった人材を、チームに積極的に取り込んでいる印象もあります。この矛盾はなんでしょうか?
箭内:初めて会う方に対しては、いまだに本当に緊張します…。だから少しでも緊張を緩和するためにも、僕と会うことに興味を持っていてもらえるような僕で居続けたいなと思っています。「今日、あの金髪の箭内さんに会うんだ」と相手が思ってくれていれば、初対面の人と会う心理的ハードルは低くなるじゃないですか。僕に会うことを少しでも楽しみにしている人とであれば、仲良くなるまでの時間が少し短くなると思うので。あざといと言われるかもしれないけれど、僕の弱腰な性格からすると、こういう“仕込み”って、結構大事なことです。ずるいですけどね。
あとは、初めて会う人と共通の友人がいる場合は、その共通の友人が守ってくれることも多い。「箭内さん、あんな感じだけど怖くないよ、意外と良い人だよ」って(笑)。そう言ってもらい続けるための努力はしないといけませんが。
—クリエイティブチームに、広告以外の領域の人を招き入れて、新しい企画や表現にチャレンジしたいと考える人は少なくないと思います。それについて、箭内さんはどう思いますか?
とても大事なことだと思います。僕は、博報堂に入って7年目くらいで、ようやくCMプランナーになりました。7年遅れて1年生になったわけですから、普通にやっていたら、他の人に勝てないと思った。だから、誰もやらないようなチームづくりをしようと決めたんです。例えば一時期、これまでにCMを撮ったことがない監督ばかりに声をかけていたことがありました。田中秀幸さん、谷田一郎さん、辻川幸一郎さん……今では有名なCMディレクターですが、初CM監督作品は僕との仕事だったんです。テリー伊藤さんや鈴木おさむさんといった放送作家とCMをつくったこともあった。広告脳ではない方たちと組むことで、面白いものができるという体験を通じて、他と違うものをつくるとか、既存の枠組みにとらわれない自由なチームづくりをすることを学びました。
もっと、広告領域以外の方に、気軽に声をかけてみても良いんじゃないかと思います。そういう“無茶振り”というか、新しいきっかけを待っている人が、実は少なくないのではないかと思うんです。ものをつくる人にとって、今まで頼まれたことのないことを頼まれるほど、ワクワクすることはないんじゃないでしょうか。
ただ、そこには「覚悟」も必要。辻川くんの初CMを撮ったときにも思ったことだけど、声をかけたからには、外部の瑞々しい才能を守らなければいけないし、彼らの能力を最大限に生かせなければ意味がない。先日、80歳のカメラマンの操上和美さんと話したときに、「高い金を払って、俺に自由にさせないなんてもったいない」という言い方をしていたんです。ともすると、「高い金を払うから、言うことを聞けよ」となってしまいがちだと思いますが、確かに、せっかく参加してもらったのなら、その人の能力を最大限に生かしてもらえたほうが良いに決まっている。自由に考え、表現してもらいながらも、クライアントが求めていることにミートさせていく。そのマッチングを間に立ってやる技能と覚悟が、面白さであり、難しさでもありますよね。