僕らはまだ、階段の途中。ーーコピーライターインタビュー vol.2 阿部広太郎

《3章》
共闘関係をつくる仕事を。

—ここからは、阿部さんの仕事について聞いていきます。

コピーライターとして、僕が本当に幸運だったのは、良い師匠に出会えたことです。僕の師匠である福井秀明さんと一緒に担当させてもらったのが東進ハイスクールさんの仕事でした。

人を動かすのは言葉ですし、教育機関である予備校の仕事は、当然ながら言葉がものすごく重要です。その中で、コピーの仕事をとことんやらせてもらいました。

「生徒への檄文篇」という林先生の「今でしょ!」が生まれたCMや、2012年にTCC新人賞を受賞した全国統一高校生テストのポスターを担当させていただきました。

あとは、ロックバンド「クリープハイプ」の仕事を3年間にわたって続けています。「リバーシブルー」という曲のプロモーションでは、渋谷の街に「真逆の気持ち」を告白するという企画をしたり、宣伝プランニングをご一緒させてもらっています。

もう一つ代表的な仕事は、R25を運営するMedia Shakersと立ち上げた30オトコを応援するプロジェクトチーム「THINK30」です。30代を、どうすれば前向きに働いて、生きていけるのか。そのテーマで僕は今も、意欲的に活動しています。その3つがこれまでクリエイティブ局にいた時の、代表的な仕事だと思っています。

 

—クリープハイプのお仕事は、いろいろ面白いことをやられていますが、どうやってはじまったのでしょうか?

完全に、自分の想いが起点となって始まっている仕事です。そもそもクリープハイプが大好きで、好きだからこそ、何か一緒に仕事をしたいなと思ったんです。これは本当に偶然で幸運なことなんですが、彼らのミュージックビデオを撮っていた松居大悟監督が、大学のクラスメイトだったんです。松居監督とクリープハイプがつくった映画「自分の事ばかりで情けなくなるよ」が公開されると知って、松居監督に連絡。自ら企画書をつくって、プレゼンをしに行って、「これはやろう!」と握手をして、宣伝の仕事を手伝いました。

—そこから広がっていったんですか?

その映画の宣伝だけで終わらせたくなくて、次は「僕はクリープハイプをこう思います」という企画書をつくり、ユニバーサルミュージックさんに提案に行ったんです。そこから信頼関係ができて、「一緒にやりましょう!」となりました。ジャケットもつくりましょう、宣伝も一緒に考えましょうってなって、今に至るまでずっと一緒に仕事をさせてもらっています。

さらに、森永乳業さんのクリーミング・パウダー「クリープ」と組んで「愛のプロジェクト」を立ち上げたり、「THINK30」で一緒に「二十九、三十」というテーマソングをつくったり。信頼関係から、共闘関係をつくれて、さまざまな仕事をしています。

—いまは、未来創造室という部署にいらっしゃいますが、ここではどんな仕事をされているんですか?

未来創造室での仕事も共闘関係をつくることだと思っています。

これまでの広告ありきの仕事ではなく、企業の経営者の方や現場の方と一緒になって、経営のあらゆるところにアイデアを活かしたり、プロダクトから一緒につくったり、そんな働き方をしています。

例えば、家具ブランドのKAMARQさんと今、一緒に進めているのが「SOUND TABLE」です。「部屋の真ん中から世界を変えていく」をコンセプトに、家具づくりをご一緒させてもらっています。また、企業とJAXAと電通が、同じテーブルで語り合い、ともに社会課題解決に繋がる新しいイノベーションを起こしていく「未来共創会議」というプロジェクトにも、メンバーの一人として参加しています。

これまで広告の仕事でやっていなかったこと、できていなかったことを、一つ一つ積み重ねて、未来に繋がるモデルを増やしていきたいと考えています。

—一つの広告やキャンペーンで終わらないんですね。

単発の仕事ではなくて、関係をつくる仕事をしていきたいと思うんです。コピーを書くことが目的ではなくて、これからもつづく関係をつくることを目指したいなと。

たとえ最初は小さいとしても、出会いのわらしべ長者みたいに、次から次へと人が繋がって、仕事が育って、大きくなっていく。次につながる何かを残していきたいと思っています。

次ページ 《4章》いま、興味があるのは“場づくり”。へ続く

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