国土が南北に長く、季節や気候に応じて多様な農産物が収穫される日本。しかし全国流通を考えると、なかなか多様な農産物が消費者に届きづらい環境にあります。一方でインターネットが浸透した今の時代、多様な商品が生存できる「ロングテール」型のビジネスモデルが広がりつつあります。インターネット、デジタルマーケティングと農産物を組み合わせることで、地方創生につながるアイデアが生まれるのではないか。そんな観点から特集を組みました。全国を対象にした大ビジネスにはならなくとも、小さく成功するネット時代の農産物の生産・販売の可能性を考えます。
詳しくは、本誌をご覧ください。
瀬戸内海を臨む、広島県・呉。海と山に囲まれ、近海に大小いくつもの島があるこの地は、海関係や、柑橘系の農家さんがとても多いです。今回紹介するのは、JA広島 ゆたかとみかん農家さんの事例です。高級みかん「石積みかん」には、生産農家同士が集まった「石積みかん部会」があります。
10周年を迎える部会が抱えていた課題は、 認知度の低さでした。その原因は、石積みかんの生果のみを販売していたため、販売 期間が収穫時期の短期間に限定されることや、生産者が少ないこと。そこで、ジュースを製造販売することで、消費者に1年を通じて石積みかんを楽しんでいただこうと考えたのです。石積みかん農家さんたちが、初の加工商品にチャレンジし、デザイナーと一緒に商品づくりをすることになりました。
「とにかくおいしいが、値段の高いジュース」ーーこれが、最初のオリエンで提示されたことでした。農家さんにとって、初めてのデザイナーとの打ち合わせ。皆さん、緊張もあってか物静かな印象でしたし、出てくるキーワードも「おいしい」か「育て方に関する専門用語」の二つで、他と差別化するキーワードがなかなか見つかりません。そこで、農家にお邪魔して、私も1日農業体験をさせていただくことに。ご自身の“ホーム”では、皆さん、みかんについて熱く・詳しく語ってくださり、ほかのみかんにはない魅力や特徴を聞き出すことができました。
「石を積んでできた段々畑で育てる」「『太陽』『海の照り返しの光』『石の照り返しの光』という3つの太陽の恵みで、みかんがおいしく育つ」などなど…。そうして得たキーワードを、パッケージデザインに凝縮しました。石を2つ積んで「石積み」 というマークをつくり、石のでこぼこ感を出すためエンボス加工をし、太陽を表現するために箔押し印刷を採用しました。
どんなプロジェクトにおいても大事にしているのは、とにかく、じっくり・ゆっくり話を聞くこと。クライアントには商品に関する情報だけでなく、例えば社内的なことや、個人的な思いなども細かく教えていただきます。そうすることで、いち商品にとどまらず、全体的なビジョンも見えてくる。より深い部分でつながり、サポートできると思っています。
また、クライアントサイドの関係スタッフと“仲良く”なり、それぞれの希望や思いを聞くことも重視しています。商品完成後、実際に売っていく段階では、特に現場スタッフの情熱が不可欠。「デザイナーに任せて、出来上がったもの」ではなく、「みんなで一緒につくった、思いの込もったもの」という愛情を持って、プロジェクトの一員として消費者にその魅力を伝えて欲しいと考えています。
地域クリエイティブの面白いところは、経営者、デザイナー、消費者との距離が近いことです。「クライアントとクリエイター」という受発注の関係ではなく、チームの一員となって何かをつくり上げるのは、やりがいがありますし、楽しいです。
広本理絵 Rie Hiromoto
アートディレクター、デザイナー
大阪、神戸のデザイン事務所など経験、広島に拠点を移しデザイン事務所「hinekure」を設立。主な受賞歴に、日本パッケージ大賞2015銅賞、“H”ADC2015グランプリなど。
CLIENT’S VOICE
農家の苦労と希望を、デザインで伝えたい
求めたのは、中身に負けない高級感や、市場に流通している既存商品とは一線を画すパッケージデザイン。「農家の苦労と希望をデザインしてもらいたい」ーその思いで、プロのクリエイターへ依頼しました。農家が生産したものを、自ら加工・販売することは地域活性化につながります。クリエイティブやデザインに力を入れることにより、他商品との差別化を強く意識し、新たな地域の特産品として強く印象づけることができると考えます。
里信 均 Hitoshi Satonobu
石積みかん部会 会長
「100万社のマーケティング 2016年6月号」発売
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