国土が南北に長く、季節や気候に応じて多様な農産物が収穫される日本。しかし全国流通を考えると、なかなか多様な農産物が消費者に届きづらい環境にあります。一方でインターネットが浸透した今の時代、多様な商品が生存できる「ロングテール」型のビジネスモデルが広がりつつあります。インターネット、デジタルマーケティングと農産物を組み合わせることで、地方創生につながるアイデアが生まれるのではないか。そんな観点から特集を組みました。全国を対象にした大ビジネスにはならなくとも、小さく成功するネット時代の農産物の生産・販売の可能性を考えます。
詳しくは、本誌をご覧ください。
地域のバラエティをもう一度生かす
戦前の養蚕、戦後の稲作と、これまでの日本の農政は農産品における「4番打者」をつくる施策をしてきました。養蚕は生糸の海外輸出を促し、稲作は戦後の食糧事情改善のため、いずれも必要な施策だったと言えるでしょう。
それでは、地方創生が大きな課題となる、現代の日本における農政のあり方とは何か。私は、その一つに「多様性」があると考えています。インターネットの浸透もあり、多様性を持った農産品をつくり、販売できる環境が整いつつあるからです。
戦後の農政は、国民を飢えさせないことが重要課題でしたので、あえて流通や価格決定の仕組みを硬直的にしてきた歴史的な背景があります。しかし、その時々の環境によって農政のあり方は変わる。今の時代は、もう一度地域のバラエティを生かす時代だと考えているのです。
生産者自らが商品を売れる時代
例えば現在、日本全国には1000を超える「道の駅」があります。「道の駅」での農産物の販売額も増加の一途を辿り、地域を元気にするカンフル剤の役割を担うようになってきました。農産品が消費者の手に届くまでには、その流通経路の中で、多くの人が介在しています。それが今では、生産者自らが地域の「道の駅」に自分が生産した農産品を持ちこみ、販売ができるようになっています。商品に貼り付けるバーコードの打ち出しや、販売管理をITの力を使い、容易にできるようになったことが、この流れを促進しています。
これまで地域の農産品を地域外の人たちにも購入してもらうには、首都圏の専門店で取り扱ってもらい、そこで全国的な知名度をつくる必要がありました。そうした流通チャネルに加えて、「道の駅」のような、新しい農産品の流通チャネルができつつあるのです。生産者による農産品販売を容易にするITの浸透、また国民のニーズの多様化があって、「道の駅」の中にある直売所が、一つのブランドを形成しうる可能性も出てきているのが今の時代と言えるでしょう。
生産数量に限度のある、地域ビジネスのあり方
ここでのポイントは、その農産品の魅力を国民全員に理解してもらう必要はないということです。嗜好性が多様化している今の時代、全国的なブランドを目指すのではなく、その農産品のファンになってくれる少数の人だけを対象にしたビジネスのあり方も存在しえます。
都会のビジネスとは、商品を全国ブランド化し、大量に販売することで製造単価を下げ、利益率を高めていくモデルです。しかし、そもそも地域のビジネスの場合、根っこに限りがある。どんなに全国で販売したいと思っても、生産量に限りがあるので、すぐに売り切れてしまうのです。全国で100万個売るための戦略ではなく、どんなに頑張っても年間で1万個しかつくれない商品ならではのマーケティングのストーリーや宣伝のあり方を考える。全国でもそうした取り組みを始めた地域が成果を出しつつあります。
例えば、埼玉県の秩父では地元のカエデの木を使い、「和メープルシロップ」を製造。このシロップを使った商品が人気になっています。しかし、この「和メープルシロップ」が、どんなに人気になったところで、そもそも生産できる数量には限りがあります。小さくてもよい。それでも、その「小さなブランド」が農山漁村の活性化に貢献すると思います。全国民から支持されるような魅力だけでなく、特定の人からしか支持されないニッチな魅力にまで視野を広げると、まだまだ眠っている地域資源があるのではないでしょうか。こうした埋もれた資産が各地で発掘され、発信されていくべきだと考えています。
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