【前回】「必要なのは、実は英語ではない――「グローバルな知性」を身につける4つの特効薬」はこちら
ブランド戦略を考える上での必要最低限な要素とは
日本語でいう「ペラいち」を英語では「1 pager」といいます。しかし、英語の1 pagerは日本語のペラいちより用途が広く、イベントの概要や会議のアジェンダのみならず、企業戦略や事業戦略などが、1 ページにまとめられることもよくあります。むしろ、事業のグローバル戦略などこそ、関係者が多岐にわたるので、恣意的な解釈の幅を最小化するべく、文書は極力短くシンプルであるべきです。
「ブランド戦略」などというと大した話なようですが、「パーソナルブランディング」などという言葉もあるくらいなので、いかなる規模の商品やサービス、そして会社にもあったほうがよいものです。接客やオフィスの受付などもブランドタッチポイントであることを考えれば、あらゆるビジネスパーソンが理解するべきものでもあります。
そこで今回は、前編・後編(翌日公開)と2回に分け、どなたでも気軽に簡単にブランド戦略策定に取り組めるよう、あるいはすでにあるブランド戦略をよりシンプルに表現できるよう、タイトルにある通り、A4用紙1ページで整理するブランド戦略の策定方法をご紹介します。
まずはこちらの図を見てください。これは筆者が開発したマンダラと呼んでいるフレームワークで、ブランド戦略に必要な最低限の要素がここに網羅されています。細かい見方は、以下で具体的に戦略を策定しながら解説していきたいのですが、ここでは、30年続く老舗の架空のエナジードリンクブランド、「アルゴンZX(ジーエックス)」のブランドリポジショニング戦略を策定する、という設定にします。
アルゴンZXは印象的なテレビCMと共に抜群の認知度を誇り、長い間圧倒的トップシェアを維持し続けてきたエナジードリンクです。しかし近年イメージがやや老朽化し、世界的なエナジードリンクブランドである、スイスの「ブルーガル」に一昨年トップシェアを奪われてしまいました。
ブルーガルはスケボーやBMXなど、ストリートスポーツを積極的に支援しており、それらのスポーツファンから支持されているのはもちろん、広く一般からも若々しくスポーティー、かつ少し破天荒な(ポジティブな意味で)イメージを持たれています。
さて、それではさっそくブランド戦略策定に取りかかりますが、まずは当該商品のターゲットを設定しましょう。マンダラで言うと、中央の黒塗りの円がそれに相当します。ここで「仮の顧客」と表現されているのは、ターゲットという言葉と概念が、今日のマーケティングにおいてはあまり適切でないと筆者が考えるためですが、本稿ではその問題には深入りしません。単純にターゲットと考えてください。
ターゲットはあまり細かく設定しすぎないことがポイントです。今日ブランドは企業だけが作るのではなく、消費者がそれをハック(改良)して完成させるものなので、最終的に誰が利用者でありファンになるのか、マーケターや企業には予測がつかないはずなのです。
暫定的で可変のものと考えるべきで、あまり細かく定義すると、メディア選定などで実行性を欠くばかりか、実際の商品の利用者や利用実態、その拡大に柔軟に対処できません。そんなわけで、ここでは「年に1回以上エナジードリンクを飲む人」をアルゴンZXのターゲットに設定しましょう。
次に、上記で設定したターゲットの、そのブランドに対する意向を分析します。マンダラで言うと、円を取り囲んでいる黒い突起の付いた四角形の部分で、ここには4つの意向が整理されています。第一に「トライアル意向」はどうでしょうか。アルゴンZXは30年以上続く老舗のブランドなので、ほとんどのターゲットが一度は飲んだことがあります。
それゆえ、これは「購入意向」とほぼ直結していますが、当の購入意向はブルーガルに押されて低下の一途をたどっています。「継続利用意向」は、昔からのファンの間でももともと低く、「推奨意向」も同様です。誰もが知る老舗ブランドであるアルゴンZXを推奨するのは、どこにでも売っている塩や醤油を人に薦めるようなものなのです。
そして、ブランドに対する認識の深さを三段階で整理します。三重になっている三つの円を確認してください。30年の歴史をもつ老舗ブランドなので、「認知」はいまだにブルーガルをも凌ぎ、エナジードリンクを飲もう、と思ったときには確実に「想起」されます。三番手以降のブランドには、この想起に課題がある場合が多いものですが、かつてトップシェアを誇ったアルゴンZXは幸いそこには課題を抱えていません。