アイドルを、やめたくなったこと
渡辺:この連載を通して僕が一番聞きたいのは、続けていくことの大事さなんです。二人は、アイドルをやめたくなったことってあるんですか?
真山:私はないです。ダンスが覚えられなかったり、どうしても嫌なことがあったりすると、逃げ出したくなるんです。でも、やめたいと思ったことはないですね。やめたら、今までやってきたことが全部ムダになる。私は死ぬまで仕事をしていきたいから、やっぱり自分の限界は決めたくないですね。
廣田:私は、いっぱいあります。小さい頃から、ずっと長い間、ずっと同じ場所に通うのも、女の子だけの世界も苦手で、今もアイドルは、本当は合ってないと思っています。でも、芸能活動はどこまで行っても完成しない。そもそも自分の完成形って何なのかわからないけど、今、いろいろなことを吸収できる場にいて、ちょっとずつだけど自分のエネルギーが大きくなっていく気がするから、自分に「いいね」してくれた人たちに恩返ししたい思いで、今日もまた何かを吸収し発信できたらと思っています。人生で、自分がどこまでやっていけるか楽しみで。続けようって思っているわけでもないけど、「続いてる」のかな。
渡辺:広告って、変化が激しい世界だし、思い通りに行かないことも多いから、やめて行く人がとても多いんです。けれど続けていくことで、少しずつ自分の力を蓄えていって、結果につながるものだと思うし、自分もコピーライターという仕事にしがみついてきたからこそ、ここまでやれているんだと思う。エビ中だって、ここまで順調にすくすく育ってるように見えるけど、そんなに簡単な道のりじゃなかったよね、きっと。それでも頑張って続けてきたから、少しずつエビ中の存在をみんなが知るようになった。続けたからこそ成長しているし、進化もしている。いろんな経験をしながら、ここまで一歩一歩進んできたと思うんです。あらためて、続けることに対するプライドや意志について、考えを聞きたいのですが。
真山:やっぱり、ここまで支えてもらったものが大きすぎるから、それを返さなきゃって思っています。いつもいろいろ強気で言うんだけど、私の根本にあるのは「感謝」なんですよ。だから、いろんな人に返していくために続けたいですね。
廣田:私は去年、声が特徴的ということで、たくさんの人に知ってもらえる機会があったんです。でも、もっと発信したいものとか伝えたいことがあったはずなのに、他を見てもらえる機会がなかった。この声のせいで、かえって相手にされないことが多い気がしたんです。そのことがすごく刺さって…このままじゃいけないと思ったんです。その時に何か変わった気がした。私は全員に好かれなくていいし、自分をいいって思ってくれている人にお返ししたい思いで、ずっとやっています。だから私が発信するものも、全員にいいって思われなくていいから、誰か一人を救える人になりたいって思い始めて、いま頑張っている途中です。
渡辺:去年、そういう気持ちの変化があったんだね…最後に、今の道を選んだことに後悔はありますか?
真山:私、後悔だらけなんですよ。今も、これで合ってたのかな、こんな強気に言って大丈夫かなと思うこともあるんですけど…でも、まあ言っちゃったことは取り返しつかないし、大丈夫かなと思っています(笑)。
廣田:後悔はあるんですけど、今の自分をつくってくれているのは後悔だから、結果的に、良かったなって思っています。なので、後悔はないですね。
当初はワイワイと賑やかな対談になることを想像していました。が、気づいたら2時間近く、真剣に話し込んでいました。普段はなかなか自分たちのことを口にしない二人が、こんなにも自分自身について、メンバーについて深く考えていたことに、正直かなり驚きました。2万人を超えるファンを前に、巨大なステージで熱いパフォーマンスを繰り広げる。そのプレッシャーに打ち克つ芯の強さと、一人のファンが放った言葉一つも深く受け止め、考え抜く繊細さ。その両面が彼女たちそのものであり、彼女たちを前へと動かすエンジンであることを知りました。
グループ内でユニットを組んだり、メンバーが自分でプロデュースしたライブを企画したり、エビ中がいつも思い切った取り組みに挑戦するのは、「成長のための、ちょっとずつの変化」の表れだったんですね。自らを成長させるために、あえて変化を取り入れてスパイスにしていく。これは僕にはまったくない考え方でした。
二人の語る言葉一つひとつに、アイドルとしての強烈なプロ意識やプライドを感じ、何度か胸が熱くなりました。リーダータイプの真山さんと、どちらかいうと一匹狼タイプの廣田さん。質問への答えは正反対なのに、目指すものはピッタリ一致する。そんな二人の関係がとても印象的だったし、彼女たちとまた仕事がしたいと強く思った、渋谷の昼下がりでした。
《非進化論的メモ》
- 枠にとらわれず、進化のためにちょっとずつ「変化」を入れる
- 自分たちを守っていた「ゆるさ」を取っ払って、前へ進む
- 関係が壊れることを恐れず、踏み出すキッカケをつくる
- 今いる場所で、できる限り「吸収」し、成長の糧にする
- 自分たちが成長することで、支えてくれた存在に返していく
次回の仕事人は、千葉ロッテマリーンズ 岡田幸文選手です。お楽しみに!