ブランド戦略の最終的な答え
さて、ここまではあらゆる角度からブランドの現状を分析し、武器庫にある武器を整理してきました。ここからは、現状分析のなかで浮き彫りになった課題をリストアップし、それを整理して大筋の課題をまとめます。そして、その大筋の課題をもとに、具体的なブランド戦略の方向性を整理していきます。
まず、「意向」の分析では、購入意向と継続利用意向、推奨意向に課題がありました。エナジードリンクという商材の特性上、継続利用するかどうかは、その人が「継続的に疲れる」かどうかにかかっています。ブルーガルも違いはなく、ここはブランドというよりはカテゴリーに依存した課題と言えそうです。
ブルーガルとの一番の違いは推奨意向で、これはまず新規性が影響していますが、加えて推奨意向に影響を及ぼす共感価値の弱さにも起因します。推奨されない。話題にならない。それをドライブする新規性と哲学がない、というのは大筋の課題の一つと言えます。
認知、想起に問題はありませんでしたが、理解の輪の中では、上記の共感価値とともに、評判価値に大きな問題がありました。アルゴンZXが机に置いてあると、「疲れている人」というレッテルを張られてしまうのです。
シェアの流出と、流出先であるブルーガルとのブランド力の差をこうして分析してみると、むしろ劣っているのは共感価値とこの評判価値だけなので、カテゴリーにおける競争の軸が、「機能的な価値」から「情緒的な価値」へと変遷していることがわかります。
そんななかで、この評判価値の構築ができていないのは致命的な課題です。継続利用意向→推奨意向へと続くサイクルの端緒である、トライアル&購入意向への影響度が大きい価値でもあるためです。
シェアを奪われている場面では、チームは負け犬マインドセットで悲観的になりがちです。何を見ても「だからウチはダメなのだ」「だから競合は強いのだ」とネガティブに捉えてしまいます。
しかし、冷静に分析してみると、上記の2つの要素以外では、アルゴンZXブランドの健康状態は実は極めて良好で、普通のブランドが構築できていないアセットをたくさん持っています。認知、機能価値、保証価値においては、ブルーガルを圧倒しているともいえるでしょう。であれば、ここをうまく活かせていない、というのも、機会損失という意味で大きな課題です。
以上で「大筋の課題」が整理できました。このように3項目程度に集約できると「おさまり」がいいでしょう。次の具体的な方針策定の場面でも、「3本柱」という形で打ち手の方向性を整理するのがおすすめです。
この3という数に科学性はないのですが、戦略というのは多岐にわたるステークホルダーに共有され、マーケティングという、会社のなかでも理屈優位の世界を超えて広がっていくので、理屈抜きに「おさまり」がいい、ということも、この段階では考慮するべきでしょう。もちろん実際には何本柱でもよいのですが。
さて、最後にいよいよ打ち手の方針を導きます。ここでは課題と打ち手を無理に一対一にする必要はありません。課題をホリスティックにとらえ、打ち手をブレスト的に発想していくなかで、結果的に全ての課題に答えられるものをリストアップできればよいです。
クリエイティブの要素も入ってくる作業なので、広告会社にブリーフィングする際は、ここからバトンタッチしてしまってもよいでしょう。自社でここまで規定しつつ、これは絶対ではないですよ、というバトンの渡し方もありえます。
打ち手として、第一に、ブルーガルが積極的に取り組むスポンサーシップが、やはりアルゴンZXにも有効そうです。哲学を強化し、同時に「利用者に対する」世間の好意的なイメージも醸成する必要があります。
ブルーガルがともすればやや軟派なイメージを持たれていること、アルゴンZXが長年続く老舗ブランドであることをふまえ、ストイックな山岳スポーツ(ロッククライミングや登山、トレイルランニングなど)をスポンサーし、「命をかけた戦いをサポートする」という哲学・スタンスを打ち立てることにしましょう。アルゴンZXが机に置いてあると、「ストイックなあの人らしい、戦っているな」と思われるような評判価値を創りだします。
第二に、もう一つの課題である新規性を打ち出すべく、パッケージとサイズ展開を全面刷新します。同時に、上記「命をかけた戦いをサポートする」という哲学・スタンスをサポートすべく、軍隊が移動時に携行するドライフード「レーション」を想起させるパッケージを開発することにしましょう。
ブランドガイドラインもその方向性に従って刷新します。ちなみに、この「命をかけた戦いをサポートする」というのはキャッチフレーズではなく、表現しなくてはいけないことを中間的に言語化したもので、実際にはこれをベースにコピーライターさんに実際のキャッチフレーズを開発してもらうイメージです。
最後に、エナジードリンクとしての機能や、安心感というものは、本来もっと重視されてしかるべくものです。そこに争点をある程度「回帰」させられるよう、議論を呼ぶポイントではあるでしょうが、あくまで紳士的なスタンスでブルーガルに「勝負を挑む」、誤解を恐れず解りやすく表現すると、ある種のネガティブキャンペーンを打っていく、という手段も講じていきましょう。これらをもって「戦略の3本柱」とします。
さて、以上の議論をすべてまとめた「1ページャー」を、最後に以下に披露します。A4 用紙1枚でおつりがくるぐらいですが、十分に論理的・網羅的といえないでしょうか。それぞれの項目を仮説とし、サーベイ調査(リサーチ)で検証しながら進めていったり、それぞれを細かく掘り下げていくことで、体裁上も戦略らしく見えるよう「肉付け」することも可能です。
これに予算とスケジュールをつければ、広告会社へのブリーフィング素材としても流用できます。課題の整理と、整理された戦略への最終的な翻訳は難易度が高いところではありますが、そこさえスムースにいけばそれほど時間がかかるものでもありませんので、ぜひ一度お試しいただけると幸いです。オープンなフレームワークとさせていただき、皆様と議論しながらブラッシュアップさせていければ何よりです。
「アルギンZX」ブランドリポジショニング戦略
1.現状
a.ターゲットは誰か?
ⅰ.年に1回以上健康ドリンクを飲む人
b.ターゲットのブランドに対する意向はどのような状態か?
ⅰ.トライアル意向:老舗ブランドにつき大半が1度は利用済み
ⅱ.購入意向:「ブルーガル」に押され低下
ⅲ.継続利用意向:もともとのファンの間でも低い
ⅳ.推奨意向:あえて人に薦めるのは不自然なくらい老舗
c.認知の段階はどのような状態か?
ⅰ.認知、想起とも高いレベル。課題は理解に集中。
d.それぞれの価値はどう理解されているか?
ⅰ.実利価値:成分まで広く認知。ブルーガルに対し優位
ⅱ.評判価値:飲んでいると「疲れている人」のイメージ
ⅲ.共感価値:哲学なし。歴史は仇になり古いイメージ。
ⅳ.保証価値:ブルーガルに対して優位
e.それぞれの手段をどう動員するか?
ⅰ.広告と商品・パッケージデザインを動員
ⅱ.チャネル、ステークホルダーは制御不可能
2.課題
a.新規性と哲学が欠けており、推奨されない。話題にならない
b.競争の軸が評判価値に移るなかそこを構築できていない
c.機能、安心感、認知という資産を活かせていない
3.ブランド戦略3本柱
a.ブランド哲学:「命をかけた戦いをサポート」啓発&山岳スポーツ支援
b.レーション(軍隊の携帯食)をイメージした新パッケージ&新ブランドガイドライン
c.機能・安心感への争点の回帰促進・ブルーガルへの「紳士的な」ネガティブキャンペーン