編集協力/大阪芸術大学
4月にスタートした、松田翔太主演の『ディアスポリス』は際どい世界観とストーリーで実写不可能と言われた人気漫画が原作。そのドラマ化と映画化に挑んだのが、数々の国際映画祭で高い評価を得ている熊切和嘉監督だ。
学生時代から変わらぬ映画への思い
『ディアスポリス』ドラマ版では熊切和嘉、冨永昌敬、茂木克仁、真利子哲也という4人の映画監督が演出をする。「みんなひと癖ある人ばかり。その中でも僕は“毒”担当として呼ばれたんじゃないかな」と話すのは熊切和嘉さん。今回、ドラマ版のほか、9月公開の映画版の監督も務めている。
熊切さんのもとに、ドラマ版『ディアスポリス』の演出依頼が届いたのは昨年。文化庁の新進芸術家海外研修制度で半年間、パリに滞在していたときだった。「映画『私の男』のプロデューサー 西ヶ谷寿一さんから“ 興味ある? ”とメールをもらいました。パリに1人でいて寂しかったので、原作の漫画はまだ読んでいなかったけれど、やりますとすぐに返事をしました(笑)」。
パリではバスター・キートンの喜劇やウィリアム・フリードキンのアクション映画などを見ながら、毎日を過ごしていた。「肉体の動きだけで、こんなにも面白いことができる――。映画は言葉を超えて楽しめるものであること。そして、肉体表現で語ることの面白さをあらためて感じました。そのときに、映画はやっぱり活劇だな、と思ったんです」。子どもの頃から好きだった活劇の魅力をパリで再確認した熊切さんにとって、アクションシーン満載の『ディアスポリス』はうってつけの作品だった。
映画版では、大阪芸術大学の卒業制作『鬼畜大宴会』のカメラマン、橋本清明さんと久しぶりにタッグを組んだ。「映画製作は段取りを決めて進めるものですが、映画はもっと自由でもいいんじゃないかと思っているんです。僕は現場のノリで“これやってみよう”と撮影することも多いのですが、CMやPVの撮影も手がけ、映画以外の技術も持っている橋本くんは、そんな僕の思いつきにもうまく応えてくれました」。
学生のとき、橋本さんをはじめ仲間とひたすら自主映画を製作していた熊切さんは、「理論より、とにかく映画を撮りたかった」。当時、大阪芸術大学では東映の時代劇や任侠映画で知られる中島貞夫監督が教鞭を執っていた。「中島監督は常々、映画はもっと自由であれ、アナーキーであれとおっしゃっていました。授業では失敗談もたくさん話してくださり、それはいまでも心に残っています。『鬼畜大宴会』は脚本を読んでもらい、血糊は上品にしろ、思い切りやれ!とアドバイスをいただきました」。
『鬼畜大宴会』は第20 回ぴあフィルムフェスティバルで準グランプリを受賞。卒業制作としては異例の劇場公開となり、海外でも高い評価を受けた。熊切さんはこれをきっかけにぴあスカラーシップを得て、上京。現在の映画監督人生へと繋がっていく。「映画監督にとって大切なのは、自分が面白いと感じるものを貫くこと。意固地になるのはダメですが、まわりの意見を聞きすぎて均されてもダメなんです」。学生時代から最新作に至る現在まで、その思いは変わらない。
熊切和嘉(くまきり・かずよし)
1974年北海道帯広市生まれ。大阪芸術大学芸術学部映像学科卒業。卒業制作『鬼畜大宴会』でデビュー以来、近作『私の男』まで監督作品の多くが数々の国際映画祭に招待されている。最新作の映画版『ディアスポリス』は9月3日に公開予定。