クチコミはお客さまからのメッセージである(Sony 「Xperia」)

メーカーとユーザーも人と人のお付き合い

笹谷:今や、アドテク分野でのいろいろな進化が話題になっていますが、我々が何かをやる時に絶対に忘れてはいけないのは、相手にしているのは「人間」だということです。つまり、人の気持ちというものは、アドテクや技術の進化に比べて、それほど大きく変わるものではありません。そのため、我々メーカー側がお客さんとコミュニケーションしたい場合、どうしたら人間らしくアプローチできるのかということが重要なんです。これは広告に限らず、プロモーション全般において、私が受け持っている全ての担当エリアで重視していることです。

藤崎:確かにテクノロジーの進化に比べて、人間はそれほど早いスピードで進化するものではありませんよね。

笹谷:我々の企業はある意味、技術メーカーです。だからこそメーカーとユーザーという関係を超えて、人と人のお付き合いが大切だということです。うちの製品に愛着を持つユーザーを増やし続けていくのが私の描く理想です。

世の中を見回しても、最近ユーザーと上手にリレーションする企業が増えてきた気がします。他の業界を見ても、例え一時的に業績が悪くなっても、ファンによって下支えされているブランドは必ずV字回復していると思います。ファンが応援をしてくれ、最後に味方してくれます。「お客様は神様」という言葉がありますが、ファンという存在は本当にありがたいものです。自分でお金を出して商品を買った立場なのに、ブランドと一緒に苦楽を共有してくれる間柄なんてメーカー冥利に尽きます。

藤崎:テクノロジーが進めば進むほど、メーカーとユーザーの間の人間的な関係が大切だという風にも聞こえます。

クチコミはお客さんからのメッセージ

笹谷:2012年に「感覚を揺さぶるもの」というテレビCMを作りました。そのCMで伝えたかったことは、我々から答えを出すのではなく、ユーザーひとり一人が感じてくれることを大事にしたいというメッセージでした。そうしたユーザーを主役にしたコミュニケーションを、CMからの投げかけではなく、もっとユーザーを直接主役に据えておこないたいと思ってきました。それが3つ目の理由です。

「ハートフル・ダイレクト」というのは、我々メーカー側からの発信で人の気持ちを動かすことは至難の技で、ユーザーの感情や感覚から生まれた発言や発信が、人の感情を動かすということです。それはアウトプットとしてはクチコミということになります。つまり、クチコミというのは、お客さんからのメッセージだと私は考えています。

藤崎:なるほど。確かに人に伝えたいことを情報発信するし、そのクチコミが他の人を動かすということを考えると、クチコミとはお客さんからの非常にパワーのあるメッセージだと言えますね。

ユーザーからのネガティブ補完アイデア

笹谷:「Xperia アンバサダープログラム」は2013年12月26日にスタートしましたが、最初に彼らの存在感を実感できたのは「Xperia Z Ultra」が発表された2014年1月22日に行ったアンバサダーミーティングでした。

当時、海外では5.5インチ以上の7インチクラスというファブレットが流行り始めていました。「Xperia Z Ultra」は、その流れをくんだ6.4インチの大型サイズで、片手でキープできる最大のサイズと、できるだけ最軽量を目指して作られたものです。もちろん薄くて軽いので、ぎりぎり片手で持てるサイズですし、女性にとってはカバンに入れて持ち運びしやすいウォレットサイズです。

ただ、人によってはもちろん手におさまらない方も出てきます。使いやすいという反面、大き過ぎるんじゃないかという懸念もあるわけです。片手じゃ持てない、落としそうという方へ向けて、どうしたらいいのかという話になった時、指サックリングというアクセサリーを使えばいいよというアイディアが出てきました。すると、その端末が持つ他のネガティブな部分に関しても、補完するようなアイデアが次々と自発的に出てきました。同じ悩みを抱えている人どうしが共感しあって情報を共有したり、新しいアイデアが生まれたり。そうした活性化がアンバサダーさんのメリットだと実感した瞬間でした。

メリットもデメリットもいろいろある端末でしたので、それぞれの視点で共感するユーザーの声を集めて発信することが、購入を検討している人の参考になるということです。この端末が生きる道は必ずあると思っていましたし、ファンによるいろいろな意見が生まれて本当に良かったと思いました。

藤崎:確かに多様な意見は参考になりますね。また、一見するとネガティブな部分も、その解決方法を知れるというのはいいことです。まさに笹谷さんが目指していた、ダメなことも受け止めることで商品への理解を深めてもらう、ということが実践できたわけですね。

笹谷:ちなみに「Xperia Z Ultra」は、面白い売れ方をしました。通常のパターン通り、発売してすぐに売れた後、一旦落ち込みましたが、落ち込み方が緩やかになった時がありました。ロングセラーとまでは言えませんが、でもずっと売れ続けているようなイメージがありました。アンバサダーの所有率はかなり高いと思いますよ(笑)

藤崎:アンバサダーのクチコミが販売に貢献できているかも知れませんね。

笹谷:そのミーティングがある程度成功したので、社内的にも注目度が高まりました。通常の広告に加えて、アンバサダーの方にレビューを書いてもらおうとか、端末をモニターしてもらおう、などという流れができていきました。

次ページ 「多様な視点を大切にするのもメーカーの役目」へ続く

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藤崎実(東京工科大学メディア学部専任講師/アジャイルメディア・ネットワーク エバンジェリスト)
藤崎実(東京工科大学メディア学部専任講師/アジャイルメディア・ネットワーク エバンジェリスト)

博報堂 宗形チーム、大広インテレクト、読売広告社、TBWA HAKUHODO、アジャイルメディア・ネットワークを経て、現職。
変わりゆく広告の最前線を歩み、ファンやアンバサダーに着目した企業のマーケティング活動に従事し、研究職に。
日本広告学会:クリエーティブ委員、産業界評議員、デジタルシフト準備委員会。日本広報学会会員。WOMマーケティング協議会:副理事長、事例共有委員会。東京コピーライターズクラブ会員。カンヌ・クリエイターオブザイヤー他受賞多数。多摩美術大学、日大商学部非常勤講師。

藤崎実(東京工科大学メディア学部専任講師/アジャイルメディア・ネットワーク エバンジェリスト)

博報堂 宗形チーム、大広インテレクト、読売広告社、TBWA HAKUHODO、アジャイルメディア・ネットワークを経て、現職。
変わりゆく広告の最前線を歩み、ファンやアンバサダーに着目した企業のマーケティング活動に従事し、研究職に。
日本広告学会:クリエーティブ委員、産業界評議員、デジタルシフト準備委員会。日本広報学会会員。WOMマーケティング協議会:副理事長、事例共有委員会。東京コピーライターズクラブ会員。カンヌ・クリエイターオブザイヤー他受賞多数。多摩美術大学、日大商学部非常勤講師。

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