ユーザーの顔が見える関係づくりが重要
笹谷:私はもともとソニー・コンピュータエンタテインメント(現ソニー・インタラクティブエンタテインメント)で「グランツーリスモ」を11年間担当していました。当時、私はイベントも担当でしたので、広告宣伝をやりながらイベントの立ち合いを朝から晩までやっていました。
そこでお客さんの反応をずっと見てきましたので、イベントに来てくれる熱量の高い方々をどう捕まえてファン化して、どう組織化するかという事は考えた方が良いんじゃないかと常に思ってきたのです。彼らは今でいえばアンバサダーですよね。
藤崎:とても納得しました。その時の経験が今のベースになっているわけですね。
笹谷:買ってくれている方々の顔が分かる宣伝マンになりたかったっていうのは常にありました。ユーザーの顔が見えるという関係が好きなのかも知れません。
藤崎:「グランツーリスモ」は流行りましたよね。私も持っていました。
笹谷:グランツーリスモのエピソードですが、ある時、お客さんが実際にどういう風に、どんな楽しみ方をしているのかを見せたいと思って、10人くらいの開発プログラマーを引き連れて「東京モータショー」に行ったことがあります。開発者は直接ユーザーに触れ合う機会がほとんどない環境で開発をしていたので、大勢の来場者が実際にプレイしている姿を見て、とても刺激を受けたようでした。
例えばユーザーがプレイする様子をみて「ああいう風に操作するんだ」とわかると、UIの担当の人間は操作方法を変えてきたり、考え方の発想を変えてきたりしました。他にも、あの人たちがこういう風に楽しめるように、深さを出そうとかインタフェイスをこういう風に変えようとか。
つまり、実際のユーザーの様子に触れ合って、開発者に刺激を与えたことによって、開発者の意識が変わっていったんですよね。そういう経験が今に生きているわけです。
藤崎:ブランドを強くしていくサイクルの中にユーザーの声を入れるというのは、新しいあり方だと思います。確かにファンとのエンゲージメントが欠かせない時代です。ユーザーの顔が見える関係づくりを大切にする笹谷さんだからでしょうか。アンバサダーミーティングでは、笹谷さんが一番前に立たれて司会をされていましたよね。
笹谷:お客様を大切にしたいというのは、私自身のモチベーションでもあるのです(笑)
藤崎:今日は貴重なお話ありがとうございました。
今回のポイント
- アンバサダーミーティングには開発者も参加
- アンバサダーの声がXperiaを進化させる
- アンバサダーと会うことで開発者の意識が変わる
- 広告の次の二段ロケットとしてのクチコミ
- ユーザーの顔が見える関係づくりが重要
今回のまとめ
本来は企業とファンの交流の場であるアンバサダーミーティングは、今やXperiaの開発者たちにとって貴重なフィードバックの場であり、大きな刺激になっている。それはメーカーとファンの理想的な関係ではないでしょうか。そして、その関係がXperiaをさらに進化させている、というお話は本当に素晴らしいと思いました。
しかし、今回のインタビューで一番感銘を受けたのは、笹谷さんのバックグラウンドでした。笹谷さんは長年関わってきた「グランツーリスモ」での広告宣伝やイベントでの経験を発展させて、現在の「Xperia アンバサダープログラム」を推進しているのです。まさに人に歴史あり。つまり「ユーザーの顔がわかる関係づくり」を大切にする姿勢には経験に基づいた原点があり、その姿勢は一貫したものだったのです。プロモーションやプロジェクトは一見、その大きさに目が奪われがちですが、実は個人が抱く理想や志やエネルギーによって推進されているという事実がそこにありました。