この連載では、メディア、とりわけても「メディアビジネス」をめぐって起きている、さまざまな地殻変動的な事象を確認していく。これらの変化は根源的であり、その影響はメディアの中心部ではもちろん、収益モデル、組織や採用、マーケティングなど周辺部へと広範囲に及ぶ。これら事象が、メディアのビジネスを今後どう変化させていくのか、分析と予測も述べていきたいと思う。
初回は、モバイル時代の「ユーザー体験」の変化と「広告ブロック」問題から始めたい。メディアと広告業界が長らく依拠してきたマネタイズ戦略、その大転換が近づいている。
なぜ広告ブロックが急増するのか
まず、「広告ブロック」のトレンドだが、むろん、「アドタイ」読者であれば関心をもって見ているだろう。国内の広告市場に与える影響はまだまだ軽微だとの“楽観論”もあるようだ。だが、モバイル時代の「ユーザー体験」の核心的課題と組み合わせて考えれば、楽観を許す現象ではない。
順を追って検討しよう。まずは、その現状だ。
米国PageFair社の調査によれば、2015年、モバイル分野で広告ブロック機能を4億人以上が利用しているところまできた。これは19億人にまで膨れあがった全世界のスマートフォン利用者の22%に相当する(「2016 Mobile Adblocking Report」)。
成長率も前年比9割増と急増している。それはなぜだろう?
アップルが、広告ブロックを昨年リリースしたiOS 9から標準的な機能として提供したことが大きい。iPhoneやiPadでは、非常に手軽に広告をブロックできるようになったのだ。
通信環境が比較的貧弱なスマホでも、ページの表示を高速化できる広告ブロック機能。米国「New York Times」は、自らのWebサイトを含め米国の著名メディア50サイトで効果を検証した(「The Cost of Mobile Ads on 50 News Websites」)。
それによれば、4G回線を用いたモバイルからのアクセスで、たとえば、「Boston.com」は平均して記事表示に39秒かかるが、広告を排除すればなんと8秒で表示する。昨今のWeb広告は背後に大きなプログラムを抱えており、それが野放図に埋めこまれたページは、ダウンロードに時間を要する。言い換えれば、ユーザーは記事より、広告表示のために多く通信コストを支払っていることも明らかになったというわけだ。
このような効果がユーザーに周知されれば、広告ブロックが歓迎されないわけがない。利用者が急成長しているのが、日本などの通信環境が整備された地域より、新興国市場に偏るのも同じ理由からだ。
ユーザーが、広告を回避しようとする理由は、表示の遅さだけではない。英国で広告関連団体が調査した結果では、ユーザーが広告ブロックを利用する理由の1位は「(本来の閲覧を)邪魔するから」、2位「(クリエイティブが)うんざりさせるようなものだから」、そして3位が「表示が遅い」からだという(「New IAB UK research reveals latest ad blocking levels」)。
つまり、表示が遅いという以上に、広告に不快な思いをしていることが理由とされている。そのため、調査では、「(本来の閲覧を)妨害するようなことを減らす、広告の数を減らすこと」が、広告ブロックへの主たる対策だと結論づけているほどだ。