外国人マーケターが指摘する「日本人視点の訪日客向け施策」<前編>

日本人消費者の「顧客視点」ならいざしらず、訪日客向けプロモーションで「顧客視点」を得るのは簡単なことではない。【『販促会議』7月号】では、「外国人×マーケティング」の二つの視座から、モルソン・クアーズのビンセント・ニコル氏や、英Campaign誌のデイビッド・ブレッケン記者/エグゼクティブ・エディターにインタビューを実施。彼らの目には、訪日客向けプロモーションはどう映っているのか。率直な意見を求めた。

この記事は本誌掲載のものを抜粋再構成したものです。全文は【『販促会議』2016年7月号】をご覧ください。本誌では、以下の内容についても聞いています。
・インバウンドが上手いのは「ユニクロ」
・言葉こそ一番の接客になる
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アルコール飲料「ZIMA(ジーマ)」で知られるモルソン・クアーズ・ジャパン。同社でブランドマネージャーを務めるビンセント・ニコル氏は、日本に住んで10年が経つ。フランス出身の同氏は、「日本の訪日客向けプロモーションは対症療法に陥っている」と鋭く指摘する。

—日本の訪日客向けプロモーションの盛り上がりをどう思いますか。

日本には、観光でナンバーワンの国になれるポテンシャルを感じます。10年前に日本に住み始めてから、故郷フランスから多くの友人・知人がこの国を訪れました。実は半分ほどの人は、日本にあまり興味を持っていなかったんです。ところが帰るころには、ほぼ100%の人が日本に満足し、帰っていきました。それぞれ、料理やポップカルチャーなど、日本の魅力に気づいたようです。

かたや国内企業の訪日観光客への対応を見てみると、“爆買い”で話題の中国人をターゲットにした施策に偏っている印象があります。百貨店での案内もそうですし、家電製品のスペックも多くの場合、中国語で書かれています。

もちろんそれは必要なことだとは思います。ただ僕の目には「中国人がたくさん日本に来るから、それに対応していこう」といった、対症療法的なコミュニケーションに陥っているようにも見えるのです。もっとほかの国にも目を向ける必要があるのではないでしょうか。

—ヨーロッパからの旅行客には、どのように映っているのでしょうか。

日本人が海外旅行をする際――もしかしたら中国人観光客の大半もそうなのかもしれませんが――1週間ぐらいで観光地をまわり、ガイドブックが紹介する有名レストランで食事をして、あとは買い物をするという画一的なプランが多いようです。だからかもしれませんが、訪日客向け施策でも、そんな旅行の仕方を前提にしている印象があります。

ヨーロッパでは、ごくふつうに、1カ月ぐらいかけて旅行することがあります。1週間の旅行と1カ月の旅行とでは、当然ニーズや旅行のスタンスは異なる。だけれども、日本のインバウンドマーケティングでは、1週間の旅行者をターゲットにしたコミュニケーションしかない。

ある友人が来日する際、「見どころはどこなのか」「どこに行けば面白い体験ができるのか」「東京や京都の情報はたくさんあるけれど、それ以外の情報が全然足りない」と言われました。彼は1カ月単位で旅行を計画するつもりだったようです。

また、ヨーロッパ人旅行者は、ガイドブックに載っている「お定まり」の旅行が好きではありません。その国の文化を感じる旅や、豊かな自然を満喫できる田舎の旅など、「オリジナルな旅」を望む人が多いんです。ですが、バックパックで、1カ月かけて日本の豊かな自然を満喫しながら旅を楽しむのに必要な情報は見つけづらいのが現状です。

さらに「日本=東京=大都会」という先入観から、日本への旅行を敬遠する人もいます。日本では、とにかくお金が必要だと思い込んでいる人もいます。

実際は、日本にはたくさんの美しい自然や歴史を楽しめる見所があります。民宿やユースホステルを使えば、旅費を安くすることだってできます。キャンプができるとわかれば、キャンプ場に足を運びたいと思う旅行者もいるでしょう。

しかし残念なことに、海外に向けて日本のそうした情報はあまり発信されていません。

—ほかにどんな情報が不足していますか。

たとえば、ヨーロッパでも人気があるジブリの博物館や、川端康成や三島由紀夫、村上春樹といった人気作家の住居や生誕の地、小説の舞台などの観光は、日本を訪れる目的になります。日暮里や千駄木のようなノスタルジックな街並みも、外国人観光客好みでしょう。ですが、どこでどんなイベントが行われているのか、お土産はどこで買えばいいのか…。

皆さんは意外に思われるかもしれませんが、観光に来る友人や知人によく聞かれるのが、絵ハガキを売っている場所です。外国人観光客は、そうした情報にすらアクセスできていないのです。

空港や駅の観光案内所は、情報が雑然としていて外国人にはわかりにくいと思います。「ポップカルチャーを楽しみたい人向け」「自然を満喫したい人向け」「日本の文学世界を楽しみたい人向け」などとテーマを設けて整理すれば、外国人旅行客も自分に合う旅を見つけることができます。

空港や駅のサイネージも、外国人観光客とのコミュニケーションツールとして利用できるはずです。見どころがたくさんあるとわかれば、何度でも日本を訪れるでしょうし、長期間過ごしてみようと思うでしょう。

この記事は本誌掲載のものを抜粋再構成したものです。全文は【『販促会議』2016年7月号】をご覧ください。本誌では、以下の内容についても聞いています。
・インバウンドが上手いのは「ユニクロ」
・言葉こそ一番の接客になる
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