小手先の面白さはもう通用しない。
本気でコミットした企業を評価した審査結果に
6月20日、プロモ&アクティベーション部門およびダイレクト部門の審査結果が発表になった。どちらも日本の入賞作品は少なく、厳しい結果となっている。
この2部門で今回どのような審査が行われたのか、審査員を務めたTBWA\HAKUHODO細田高広さんと博報堂 志水雅子さんに聞いた。
細田 日本を含め、アジアの受賞がすごく少ない年になりました。個人的には審査にフラストレーションがあったことは否めません。確かにプロモ&アクティベーションの審査員で、アジア人は僕一人で不利だったのかもしれません。しかしそれ以上に大きな原因は、日本のプロモ&アクティベーションの考え方が遅れていることです。
日本にとってのプロモ&アクティベーションカテゴリーは少額の予算でも、小手先のアイデアでも獲れるカテゴリーとしてとらえている節があります。しかし、今年のテーマはインパクト。初日にチャリティにはとことん厳しくしようとの方針が審査委員長から語られました。
チャリティがほめられるのはカンヌでなくていい。アワード狙いのギミックも、厳しく落としてやろう――。そのフィルターに日本の作品の多くはひっかかりました。
ビジネスを本気で変えようとしているのか?本当にインパクトをつくれているのか?きちんとクリエイティビティを発揮しているのか?日本の人はまだアワードショーゲームをしたいの?と。それはダイレクトでも同じだったんじゃないでしょうか。
そういう意味で、審査員はみなモラルが高い人たちでした。ビッグクライアントのビッグな仕事で、ビッグなインパクトを残したものを見つけるべく議論が進みました。その結果としてグランプリ候補に残ったのが、DB EXPORT「BREWTROLEUM」、REI「#OPTOUTSIDE」です。
志水 審査委員長は方針として、行動を変える、人と人とのエンゲージメントを高めるだけでなく、どれだけバリューを足すことができるか、どれだけスケールするかなど具体的な成果をきちんと評価しようと話していました。
審査時に、それがあるものと無いものを比べるとビジネスとして成果があるもののほうが圧倒的に強くなる。その結果、アワード狙いの日本の作品は落ちてしまう。これはダイレクトでも同じです。
細田 日本と欧米の事情の違いも明白です。例えばお酒のCM。欧米は規制があって、お酒のCMが流せない。バジェットがあるのにマスマーケティングができないから、何でビジネスインパクトを与えるのか、どうすればマーケットを変えることができるのかと日々考えなくてはならない状況にある。
日本はまだマスが中心で、それが届かないところにプロモーションやイベントをやろうという考えがあります。プロモーションはマスの補足であるという位置づけで、そこが大きな違いです。
志水 今回はただの広告キャンペーンではなく、グランプリを獲したSWEDISH TOURIST ASSOCIATION「THE SWEDISH NUMBER」に代表されるように、国単位の話になっていたり、次点だったBREWTROLEUMは新しいエコシステムを作り出したりと、人の価値観及び行動を変え、さらにその視点に学びがある。
グランプリを選ぶ際は、一時的な広告ではなく、もうひとつ上のランクで議論がなされていました。
細田 インパクトと言っても、必ずしもスケールの大きさが求められているわけではないんです。審査員の一人が言っていたのですが、大事なのは「コミットメント」。つまり、どれだけの覚悟が必要だったのか。
例えばBREWTROLEUMだったら、あのシステムに投資しなくてはいけないし、そもそもガソリンスタンドを運営することに大きな決断が求められますよね。REIの#OPTOUTDISEも、すごい決断を迫られたと思います。1年で一番商品が売れるであろう日に、何も売らないというわけですから。アンチプロモーションキャンペーンが、プロモのグランプリになったのが面白い。その決断にはものすごいコミットメントが伴っている。
今年、受賞したしたものの多くは、クライアントの大きな決断を伴うものたちです。カンヌにきた若者たちが日本に帰ってから「少額でもいいからこそこそ自分のプロジェクトをやろう」ではなく「帰ったら、一番大きなクライアントの仕事で、ゲームチェンジするようなでかい仕事をやってやろう」と思ってほしいというのが我々審査員からのメッセージです。ゴールド以上のリストを見てください。ビッグなクライアントのビッグな案件ばかりであることに気づくことでしょう。
ちなみにプロモの審査では最後、「BREWTROLEUM」と「#OPTOUTSIDE」の決戦投票になりました。その結果、真っ2つに審査員の票が割れたんです。最終的に「#OPTOUTSIDE」に決まるまでには何時間もの議論がなされました。
これまでプロモーションはいかに売るかのアイデアを競ってきた。BREWTROLEUMはビジネスモデルとも言える提案だが、革新的なのは「売らない」という決断をすることで長期的に売るという#OPTOUTSIDEの方がコミットメントが大きいのでは?というところで意見が一致したんです。
確かに、みんなが買い物よりもアウトドアに出かける方が、アウトドアの大手であるREIには結局、いい結果が待っているはず。実はサステイナブルな提案なんですね。いま、ほかのカテゴリーが増えて、システムやテクノロジーを褒め称えることはいくらでもできる。一方で、「#OPTOUTSIDE」は経営者一人の勇気だけ。テクノロジーをほめるか、経営判断、つまり一人の勇気をほめるか――。テクノロジーを褒める部門はほかにもたくさんあるけれど、僕たちのカテゴリーとしては決断を讃えたいということになりました。
「#OPTOUTSIDE」は一人の社長を中心に、デジタルもソーシャルもあり、インテグレートとしてコミュニケーションができています。メッセージも経営判断をそのまま伝えている。そういう透明性が、今回の受賞のキーになったと思います。
志水 ダイレクトはそもそも定義が難しい。人と人とのエンゲージメント高めること、ビジネスとしての成果、どちらもダイレクト、そこの議論はつきませんでした。
ちなみにゴールド15個のうち、グランプリに値するものを2,3個選び、審査員が投票した結果、最後二つ残ったのが「BREWTROLEUM」と「THE SWEDISH NUMBER」。「THE SWEDISH NUMBER」は、さまざまなソーシャルメディアがある中で、人と人が実際に“話す”という根源的な施策。これは、まさに何にも勝てないダイレクトでヒューマンなエンゲージメントだよね、しかも一つの電話番号を一つの国が持つというのはこれまでにない。電話をかけるというアイデアはほかにもあるけれど、国民が自分の思うように自由に発言できるfreedom of speechを実現できるのは、規模と知的レベルなどそのすべてが揃ったスウェーデンだからこそ。
実は審査員でこれを体験した人がいたのですが、ものすごく感動していて…。人と人とのつながりをつくり、個人的な体験の強さを生み出す。それを国単位でやりとげたのが「THE SWEDISH NUMBER」。審査委員長のマーク・タッセルもあるコンペでフェイストゥフェイスで話すことの重要性を説いて勝った事例を話していたのですが、そういう体験って誰にでもありますよね?この企画はシステムだけではなく、ダイレクトに人と人とのつながりをつくり、人の気持ちを動かしたことが大きかったと思います。
「BREWTROLEUM」は新しいエコシステム及び新しい消費者行動を生み出しているがプロモ寄りの企画で、他の部門の方がふさわしいのでないのかという議論もありました。「THE SWEDISH NUMBER」はまさにダイレクト部門にふさわしい仕事ということで、審査員の意見が一致しグランプリとなりました。
プロモ&アクティベーション部門グランプリ受賞
REI 「Opt Outside」
スポーツ用品小売りチェーン REI「#OptOutside」。米国では11月の第4木曜日に行なわれる感謝祭翌日の大規模セール「ブラック・フライデー」に全146店鋪の営業をしないことを発表した。そして、「ブラックフライデーには買い物をしないで、アウトドアを楽しもう(Opt Outside)」というメッセージを発信。その勇気ある行動が高く評価された。
ダイレクト部門グランプリ受賞
SWEDISH TOURIST ASSOCIATION「THE SWEDISH NUMBER」
+46 771 793 336の番号に電話をかけると、Swedish Tourist Associationに登録しているスウェーデン人のボランティアスタッフが出て、話をする。会ったこともない人とのさまざまな会話を通して、スウェーデンについて知ることができる。検閲廃止250周年を記念して、スウェーデンの政府観光局が実施した企画。
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