世論を動かすPR
井口:続いては井之上パブリックリレーションズの事例を見ていきましょうか。クライアントはクラウドで経費精算を行うソリューションを提供するコンカーですね。
横田:この分野のサービスを手掛けている企業としては、世界最大手です。その日本法人の立ち上げから認知拡大のお手伝いに加えて、規制緩和に向けた取り組みもご一緒しています。
井口:本の中では「PRドリブン経営」と紹介されていましたね。
横田:PRドリブン経営とは、簡単に言えばPRを起点にした経営モデルのことです。たいていの場合、「今度新製品が出る」という予定に合わせてPR活動を検討すると思いますが、PRドリブン経営では、認知拡大やブランディングのために、プレスリリースや記者会見を継続的に実施したい、そのためにはこの時期に新しいサービスや提携によるビジネス戦略を発表したいと逆算し、スケジューリングを進めていく考え方です。その商品・サービスの開発にアドバイスすることもあります。
佐藤:アウトプットを前提として、経営戦略やマーケティング戦略を組んでいくということですね。
中尾:そのためには両者間で綿密な情報共有が常に必要なのではないですか。
横田:その通りです。私たちも実際にクライアントの経営戦略や営業指針などに関わる情報を日々共有してもらっています。そして、その情報と私たちのPRの知見をもって、例えばさらに収集が必要なインテリジェンスはないか、この情報を世の中に出すタイミングはいつにするのか、プレスリリースや個別取材、プレスイベントにどのような意味付けと切り口を設定するかなど、逐一検討してきました。
手ごたえのよさは当初から感じていましたね。日本での知名度が限られる外資系企業の日本法人が立ち上がったというだけでは、なかなか話題にはなりにくいかと思われますが、日本経済新聞で日本法人立ち上げのニュースが掲載され、そこでの露出が基になって日本での初クライアント獲得につながったそうです。こうした成果は、コンカーのトップである三村真宗社長がPRに非常に協力的であったことが大きかったと思います。
井口:規制緩和を促す取り組みもお手伝いしていましたよね。
横田:事業が順調に拡大してきて、次に目を付けたのがガバメントリレーションズ、特にロビー活動でした。これまでのe-文書法では、領収書などの帳票を企業は紙で保管せねばならず、従業員が逐次仕分け、一枚一枚をのりづけしてまとめる作業が必要でした。モバイルデバイスなどでデジタル化が進む今となっては非常に非生産的な作業ですよね。そこで、スマホで領収書の電子化を可能にする規制緩和を実現させ、一人ひとりの生産性を高め、企業が負う帳票の輸送保管管理コストを減らし、日本経済全体の底上げにつなげよう。ひいては、コンカーのビジネスチャンスを拡大させようと考えました。
佐藤:具体的にはどのようなサポートをされたのでしょうか。
横田:例えば大企業500社のCFO(最高財務責任者)を対象に、日本CFO協会とコンカーが共同で「領収書の電子化と経費管理に関する調査」を行いました。その結果、スキャナーでの領収書電子化要件緩和だけでは不十分で、多くの企業がスマホでの電子化を望んでいることが分かりました。コンカーだけでなく、日本CFO協会との共同調査として世に出しているところがポイントです。このような調査結果を共同で出すことで、メディアがオーソライズされたデータとして取り扱いやすいようにしたのです。結果、多方面で紹介され、世論を形成。報道記事を活用しながらロビー活動も続け、それが最終的にコンカーのビジネスチャンスを膨らませる規制緩和につながったのは言うまでもありません。
井口:ロビイングは日本では難しいと言われていますが、段階を追って、外堀から埋めていくアプローチはPRが得意とするところです。今回のケースは、時間をかけながら戦略的に実現した好例でしたね。
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