来年以降のトレンドを占う
審査員諸氏は来年以降のトレンド予想も話していた。VR(Virtual Reality=仮想現実)に関しては単純な作品は多かったが、ゴッホの作品並みのインパクトが無いと例えばジェットコースターの体験のようなものだけではだめだろうとコメント。むしろAI(Artificial Intelligence=人工知能)の活用がこれから主流になるのではないかということであった。
AIによる破壊的な創造性はまだその一端を見ただけであり、それこそ人類が見たことも考えたこともないものが出てくるであろうとのことである。また、サイバー部門は今後スクリーンから解放され、ありとあらゆるインターフェィスに拡張していくだろうということである。
触覚、聴覚、言語インターフェィスなど、人体がインターフェィスになることもどんどん起こってくるという。5年後にはキャンペーンではなく「インターフェィスされた人間を審査することになるかも知れない」と冗談交じりにBonn氏は話していたが、まんざら空想の話でもなさそうである。
今年から”For Good”の審査はチタニウム部門に集約
質疑応答では昨年のトレンドでもあったFor Good、世の中を「よくするキャンペーンが少ないのでは?」という質問が出た。審査委員長のGottlieb氏は次のように答えた。
「例えば難民救済に関する応募だけでも20作品以上あったのでむしろ増えている。ただし、その多くは悲観的なもので現実を表しているが解決方法を提示していない。受賞したUnFairytale(おとぎ話ではない)という作品は、その中でもテクノロジーを駆使して希望をもたらす可能性のあるものだった」として、「テクノロジーやプラットフォームの技術をハックして新しい解決方法を提示するものは今後も評価されるだろう」としてサムスンの胎内環境を再現するWombifies(胎内化)やMinecraft経由電話できる施策などを挙げていた。
その上で「For Goodのキャンペーンはサイバーではなくチタニウム部門に回すことになった」のでそのような施策はチタニウム部門で評価されるとのことであった。
この話を聞いた時に記事の最初に出た違和感の原因がつかめたのである。もともと“広告祭”という側面が強かったカンヌの受賞作の多くが非営利的なものになると、クライアントワークに対する評価が下がることを懸念したと推察されるが、いわば原点に戻る形となったのだ。
社会的な意義は大きくても経済的な意味が小さければスポンサーが問題と感じるのは当然であり、チタニウムに集約することいいおさまりではないかと筆者は評価している。最終日のチタニウムの発表はその観点で見るとまた違うものになるだろう。