【前回コラム】「7つの戦略論をコンパクト解説 その3「エンゲージメント論」「クチコミ論」」はこちら
磯部光毅(いそべ・こおき)
アカウントプラナー
1972年生まれ。博報堂ストラテジックプランニング局を経て、制作局(コピーライター)に転属。2007年独立。主な仕事に、サントリー「ジムビーム」「ザ・プレミアムモルツ」「伊右衛門」、トヨタ自動車「G’s」、コーセー、KDDI、Google、味の素など。ブランドコミュニケーション戦略を核に、事業戦略、商品開発からエグゼキューション開発まで統合的にプランニングすることを得意とする。
野添剛士(のぞえ・たけし)
SIX クリエイティブディレクター/CEO
主な仕事に、SAMSUNG「SPACE BALLOON PROJECT」、サントリー「ジムビーム」「Kiss a ZIMA」など。マスメディアでのブランディングから、ソーシャル、体験デザインまで統合的にデザインしている。2011年クリエイター・オブ・ザ・イヤー メダリスト、カンヌライオンズ2013プロモ&アクティベーション部門審査員。
広告は「異種格闘技」だからこそ、よりどころになる型が必要
野添:『手書きの戦略論』、読みました。まず面白いと思ったのが、7つの戦略論を代表的なものとして紹介しておきながら、実は「この戦略論はここが弱い」と逐一指摘してあるところ。「一つの流派では足りない」という一貫したスタンスを取っていて、日々クライアントワークに向き合い、複数の戦略論を使いこなす現業の人の立場で書かれた本だと感じました。
磯部:あるひとつの手法で、すべて解決するかのように書かれたマーケティングの本は多いですよね。でも実際の現場ではそんな簡単にいかないし、ここではこの戦略、時には組み合わせて…と強みと弱みを知りながら使いこなさないといけない。そのために必要なコミュニケーション戦略の全体像を、皆さんに一度知っていただきたくて、7つの戦略論に整理して書いたんです。
野添:広告は戦略の組み合わせによる“ 総合格闘技”じゃないですか。その時に、毎回同じ戦い方しかできない人は不利ですよね。「型があるから型破り」という言葉があるように、基本的な戦略のバリエーションをわかっていないと、使う、組み合わせる、何かをベースに変化させて新しい戦略を生む、といったことはできません。
磯部:野添くんとは、新しいブランドの立ち上げや、大きなリニューアルのタイミングで一緒に仕事をすることが多いですよね。
野添:そうですね。最近、僕は「ブランドの可能性を最大化するのがクリエイティブディレクターの仕事」だと思っています。何年かけてこのブランドを成長させて、最大の伸びしろはここである、ということを考えていくスパンの長い仕事です。磯部さんには、その初期の打ち合わせに戦略プランナーとして参加いただくことが多いです。というのも、この段階では、ブランドを成長せるために、「大きくはこの方向性で考えるべき」「他業種のあの事例の考え方が使えないか?」といった“見立て”が必要になってくるからです。そうやって大まかに決めたら、あとはクリエイティブを作りこんで行きますが、最初の頃はずっとそんな話をしていますね。
磯部:リサーチ結果を順当に分析するだけなら誰でもできますが、今戦略プランナーに求められているのは、そこから飛躍して発想する戦略や、視点を変える戦略だと思います。ただし、それは誰も見たことのない全く新しい戦略なのではなくて、野添くんが言ったように、他業種や過去の成功事例から導き出された「型」を元に考えてみる、ということだと思うんです。
野添:磯部さんはよくサッカーに例えて「パスを出す」と言いますね。磯部さんが戦略家として色々な型でパスを出し、僕たちクリエイターがそこからシュートを決める。初期の打ち合わせでは、このパスとシュートのシミュレーションをひたすらしながら、一番鮮やかなシュートを打つ方法を一緒に考えている感じです。
磯部:戦略プランナーの仕事がエグゼキューション寄りになっているとも言えます。SIXのメンバーは、この本で紹介している7つのどの戦略でパスを出しても、シュートが打てる。ブランド広告でも、バス動画でも、デジタルでも、マス広告でも。その多様性がSIXの特徴だと思っています。