ネット上の「批判」「誹謗中傷」に、メディアや書き手はどう向き合えばいい?

メディアは「批判」に強いのか?

浜田敬子(朝日新聞社 総合プロデュース室 プロデューサー)
朝日新聞入社後、前橋、仙台支局を経て週刊朝日編集部。1999年にAERA編集部へ2004年に同副編集長。06年育児休業を取得。2014年4月に編集長。2016年から現職。テレビ番組のコメンテーターなどを務める。

浜田:AERAもYahoo!ニュースやNewsPicksに記事を提供している以上、批判を受けることもあると覚悟はしていました。ただ、そこでのコメントが事実誤認で、その結果、メディアのブランドを毀損するものだったら、メディア側はどうしたらいいのでしょう?

徳力:最近、タレントの平子理沙さんがネット上で炎上事件を起こした人が6人だったと特定して弁護士に相談した、ということが話題になりましたよね。個人が誹謗中傷した人を訴えるように、深刻なものはメディアも訴えればいいと思います。社会のルールから逸脱した行為は、罰せられるということを多くの人に理解してもらった方が良いと思います。

浜田:記事内の登場人物の人権を侵害するコメントがついたときに、その記事を配信したプラットフォーム側の責任はあると思いますか?

徳力基彦(アジャイルメディア・ネットワーク 取締役 CMO ブロガー)
NTTなどを経て、2006年にアジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーとして運営に参画。「アンバサダーを重視するアプローチ」をキーワードに、ソーシャルメディアの企業活用についての啓蒙活動を担当。

徳力:責任は、ある程度はあると思います。ただ、難しい面もありますよね。そのコメントが事実かどうかは、取材していないプラットフォーム側にはわからないことが多く、事実誤認には責任がないように思います。今回の境さんの騒動のように、どのレベルの発言を誹謗中傷と受け取るかは人によって違いますし。

ただ一方で、「死ね」「殺すぞ!」といったコメントは、社会的に逸脱しているため、プラットフォーム側にはある程度「消す責任」とか「見えなくする責任」があると思います。

浜田:今は、SNSやニュースのコメント機能が、不満のはけ口になっていますよね。ときには、社会的地位のある人までがいきなり批判してくることもあります。

ある取材先にTwitter上で「AERAのライターの態度がひどかった」と書かれて、そのツイートがあっという間に拡散してしまったということがありました。ライターに事実関係を確認したら、こちらに非がないことがわかった。そこで、私は先方に電話をして、「こちらの調査ではライターに非がないように思ったが、それでもこちらに不手際があったとしたらTwitterに書き込むのではなく、直接私に言ってほしかった」と伝えました。

先方との今後の関係もあるし、簡単には訴えられませんよね。マスコミはネット上で「マスゴミ」と言われ、常に批判されているので、自分たちの主張を信じてもらいづらい面もあります。

中川:メディアは、嫌われていますからね。

浜田:中川さん、どうしたらいいのでしょう?

中川:まず、ネット上で立場が強い人、弱い人がいることを理解しなければいけないでしょう。ネット上での最強は「無職のバカ」です。なぜなら失うものが何もないからです。次に強いのが、名前を出しているフリーランスや社長です。俺もそうですが、山本一郎さん、堀江貴文さんが代表例です。この場合、相手から批判されても「俺が責任者だ!」で、終わりです。むしろ、批判してきた人の過去を調べて、スクリーンショットを撮って、多数のフォロワーをバックに号令をかけて、炎上させる。

一同:中川さん、怖い…。

中川:逆に一番弱い立場が、ある程度いい会社に勤めている社会的立場にある匿名の人です。これはネット上で、身元を明かそうという力学が働きます。最近も、ネット上の過激すぎる発言のせいで、身元を特定されて失職した人がいます。まずは、自分がどの立場にいるか、知る必要があります。

浜田:メディアの立場は難しいですね。メディア側に実害がでた場合は、どうすればいいのでしょう?

徳力:実害がでたら、法的手段を取ることも選択肢に入れていいのではないでしょうか。

浜田:東日本大震災のときに、『AERA』の2011年3月28日号で「放射能がくる」というタイトルの特集を組みました。その特集は、ものすごい批判にさらされて、最悪のケースでは休刊になるかもしれないとまで思いました。ただし、ちゃんと取材していた内容に自信はあったし、後に正しい報道だったことも判明しました。このときから定期的にTwitterをチェックするようにしています。

徳力:やはり、今の時代は物理的にも、心理的にも個人が批判しやすくなっていて、企業側がクレームに耐えきれなくなっています。その結果、表現がどんどん丸くなっていく。メディア側が苦しくなるのは、相対的に仕方がないのかもしれません。

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