インナーコミュニケーションで働く意欲を高める方法

「グループ報」発行の目的とは

編集部:ここからは社内媒体について、詳しくお話をうかがっていければと思います。社員に読んでもらう企画や工夫、実践しているアイデアなど、教えていただけますか。

島﨑:国内の丸紅グループ社員を対象に社内誌『M-SPIRIT』を約2万1000部発行しています。ウェブ版の社内報「MS+」も随時更新しており、毎月の訪問数は2万2000人。メールマガジンも月に3~4回発行しています。紙の社内誌は季刊なので、インタビューや事業紹介などじっくり読んでもらいたい記事を中心とし、ニュースなどはウェブの社内報やメルマガでタイムリーに展開。海外や取引先に向けてFacebookやYouTubeも活用しています。

西山::西武ホールディングスでは、隔月でグループ報『ism(イズム)』を発行しています。一部の事業会社にも社内報はありますが、グループ報ではグループビジョンを前提とした「西武イズム」を浸透させて醸成するために、各社でのグループビジョン実践の具体的事例を紹介しています。

また、イントラネットでは「web-ism」という名称で展開し、随時更新しています。なかでもトップの考えを理解してもらおうと、後藤が日常の中で感じたことを「社長のきもち」と題したブログにより10年以上発信し続けており、経営トップと社員のコミュニケーションツールとして掲載しています。

編集部:更新頻度と社員からの反響はいかがですか。

西山::不定期ですが月4回ぐらい更新していまして、後藤が各地の事業所を訪問した際にブログが話題になることも多いようです。かつての経営者は「雲の上の存在」でしたが、新体制では身近で親しみも感じてほしいという狙いもありました。例えば地方出張の様子やプライベートな出来事などを気軽にどんどんブログにアップすることで距離感を徹底的に縮め、かつ経営者の考えを直接伝える手段のひとつとしても機能しています。

編集部:トップが月4回もブログを更新するのはすごいですね。トップがそこまでコミットするというのは非常に珍しいと思います。

西山::継続が大切、と本人は言っています。

ツール制作やブログ更新で新社長と社員の気持ちをひとつに

2006年3月のグループ再編の完了と同時に新たにグループビジョンを制定し、広報部は「ビジョンブック」を作成した。

グループ報『ism(イズム)』とイントラネットの「webism」。「web-ism」には後藤高志社長が日常の中で感じたことを発信する「社長のきもち」と題したブログも。

島﨑:丸紅では最近、ウェブ上での動画活用に力を入れるようになりました。例えば海外事業会社の社長による来日講演や、プロジェクトの現場などをウェブ版社内報にアップしています。最近の事例では、3月に実施した電力小売事業参入発表記者会見の様子をアップしました。スタジオジブリと組んだ新料金プランで、料金の一部はジブリが支援する森林の保全を行う活動に使われるという内容です。

動画は情報量が多く分かりやすいうえ、臨場感を味わってもらうことができますので、今後もどんどん活用していきたいと思います。ちなみに撮影は広報部員がカメラを抱えて行くこともありますが、取材内容に応じてプロカメラマンに依頼することもあります。

動画の活用や多くの社員紹介で多岐にわたる事業をつなぐ

社内誌『M-SPIRIT』とウェブ版の社内報「MS+」を発行。「MS+」では動画活用に力を入れており、海外事業会社の社長の来日講演などを公開している。

編集部:会場でも皆さんに実際の動画、ウェブ版社内報を見ていただきましたが、動画のクオリティが非常に高い点が印象的でした。企画を進める上でのポイント、こだわっている点などあれば教えていただけますか。

島﨑:社内報の制作で徹底している点は、できるだけ多くの社員が登場する誌面づくりです。国内外の事業会社紹介や社員インタビュー記事はもちろん、社内の相互会活動や社員からの投稿など、幅広い内容を掲載しています。広報部による突撃取材ということで、会社の入り口で社員に今年の抱負を聞くインタビュー企画なども実施しているのですが、やはり自分自身や身近な人が社内報に出ていると見てみようという気持ちになりますから、とにかく社員を一人でも多く出しています。

2015年は営業部長72人全員の若いころの体験談や、意気込みなどを紹介する新たな試みとして冊子を制作。部長の人となりが今まで以上に分かったと好評でした。また、毎年一番人気のコンテンツは新入社員紹介で、ウェブにアップすると同時にアクセスが集中し、つながりにくくなるほどです。

西山::西武ホールディングスの場合、インナーコミュニケーション活動には3つの狙いがあると考えています。①社員にチャレンジ意欲とボトムアップマインドを定着させる ②経営との距離感を徹底的に短縮させる ③各社、各事業所の交流を図り協力体制を構築する。この3つを主眼に置いたうえでグループスローガンを踏まえ、「スマイル」をテーマにした施策を行っています。

例えば、2006年から10回開催している「チームほほえみ賞・大賞」。グループの各職場からグループビジョンに基づく取り組み事例を募集するアワードで、まず、各社での審査により受賞を決め、各社社長による表彰を行います。その後、各社における受賞者は全国の事業所から集まり、西武グループとしての大賞を決定するための選考会に参加。西武グループ各社の経営陣の前で取り組み事例のプレゼンを行い、投票によって大賞が決定します。これはお互いの取り組みを知り交流を深める場としても機能しており、これまでにのべ1220人が参加しました。今後も息長く続けていきたいです。

社内理解を深めるポイント

編集部:インナーコミュニケーションの施策は成果が見えにくかったり、効果が出るまでに時間がかかったりしますが、重要性を社内でどのように説明し、理解を得ていますか。

西山::ここ10年間は、地域や業種を越えたインナーコミュニケーションによって横のつながりを強化し、気持ちを共有しようと努めてきました。特に心がけていることは、広報部だけで実現できると思わずに様々な部門と協力することです。

それを実感した事例が、2015年3月の西武ホールディングスと西武鉄道による台湾の鉄道会社との友好協定の締結。海を越えたスタンプラリーも実現しました。協定締結のきっかけとなったのは、西武鉄道の若手女性社員の発案と行動力です。そして国内企業の西武鉄道がこれを西武ホールディングスとともに実現させることができたのは、プリンスホテルの台北支店や、昔から台湾と親交がある西武ライオンズといった、業種を越えたグループ会社の協力があったからです。この経験により、インナーコミュニケーションにあたって気持ち、達成感を共有するには、事業会社の壁を越えて一緒に仕事をすることが一番効果的だと改めて実感しました。

島﨑:インナーコミュニケーションを推進するには経営陣の理解が必要ですが、経営陣の顔色を見すぎてはダメだと思います。広報は「そこまでやるの?」と言われるほどやることもときには必要ではないでしょうか。また、どれだけ社員を巻き込むことができるか。そこが課題です。

西山::一番効果があるのは事業会社の壁を越えて社員が一緒に仕事をすること、と申しましたが、担当業務の性質により、そういった機会がない社員はまだたくさんいます。広報はそうした社員に他の事業会社と交流できるような機会を提供して、サポートして補完していく役割があると思っています。これからは地方にもどんどん足を運んで、地道に息長くインナー広報の活動を続けていきたいと思います。

島﨑:同感ですね。丸紅でいえば単体・事業会社合わせて約4万人の社員に、丸紅グループ社員としての強い意識や誇りを持ってもらうために、広報活動は非常に重要な役割を担っています。特にこれからの時代、SNSの活用やウェブサイトの充実が求められると思っていますので、コンテンツづくりのために事業会社を訪問して取材するなど、地道な作業が必要です。そうした活動を今後もコツコツと積み重ねていこうと思っています。

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